忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
公園の前で道哉が足先を変えた。
「ここで休んで行こうぜ。ってか、ちょっと落ち着け。やりすぎだわ」
「……わかってるよ。それに段取り無視した」
「あいつ、圭介だっけ、必死だったな」
「……」
公園に外灯はなく、湿った熱風が肌に絡み夜に紛れていく。外周を囲む木々が揺れて私たちの気配を感じた野良猫が小さく鳴いた。
「俺はてっきりさ、結婚は親に反対されたからやめる、けど、おまえとは続けたい――みたいな感じでしつこくされてんのかと思ったてよ。なんだよ、すげえ惚れられてんじゃん」
「……いつから会話聞いてたの?」
「んー、わりと最初から?」
色舗装された歩道を進み広場に出た。その先には遊具が並んでいる。
子供の頃はここで遊ぶのが日課だった。
「俺、あいつどこかで見たことあるかも。思い出せないけど見覚えがある。……気がする」
「家に何度も来てるし、そのときにすれちがってるとかじゃないの」
そっけなく言った。
「なるほど。そっか。そうだな」
つきあい始めた最初だけは駅まで迎えに行ったが、二度目からは道を覚えてひとりで来るようになった。近所に住む道哉とどこかで知らずにすれ違う、そういうこともあるかもしれない。
「おじさんはあいつのことなんて?」
鉄棒にもたれる道哉から離れ、ブランコをこいだ。
「なにも」
きい、きい、と細い音を立てて揺れるブランコを加速させる。子供の頃は空に届きそうなくらい高くこぐことができた。今は怖さが先に立つ。
「じゃ、賛成なんだろ。親ってその男が娘を不幸にするかどうか、一瞬で見破れるらしいぞ」
「……」
靴の底で地面を擦り強引にブランコを止めた。
「お父さんは圭介の継母が若葉さんって知らないんだよ」
「知っても反対しないって。おじさんはそういう人だし」
「……」
反論できず、唇を噛んだ。
分かっている。父はいつも通り、目の前の現実を受け入れるはずだ。
「圭介とは終わり。決めたことだから」
私はまたブランコをこぎ始める。さっきよりも、高くこいでいく。空がちょっと近づいてきてくれた。もう少し、あともう少し。空から離れる一瞬に私の中の余計な感情もはがしてくれたらいいのに、と思う。未練もなにもかも。
「でも、おまえもあいつが好きだよな。矛盾してるな」
「……」
私がぎゅうっと目を閉じる。
別れることしか選べない。なのに、圭介が一歩も引かずに求めてくれることに縋っている。
ひどくあしらって傷つけているくせに、圭介が会いにきてくれる、そのことに心の底から救われている。
矛盾とはこんなに醜いものだったろうか。その醜さに食い尽くされる前に私は……。
「道哉、お願いがある」
煩わしいすべてから解放されたかった。
「私のカレシになって」
「演技ってこと?」
「演技じゃなくてもいい」
「どういうことだ?」
「元サヤってこと」
「……」
圭介を愛している。
だから、ほんとうにほんとうに、終わりにしなければならない。