忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
退職から十日もすると起きてから寝るまでの時間のほとんどを持て余すようになった。
年末にしか手を出さない掃除まで済ませたことも原因かもしれない。とにかくもう、他にやることが思いつかなかった。
洗濯物を干している最中、ポストがかたかたと音を立てた。
庭先から郵便配達員に会釈し、カゴを抱えたまま玄関へ回った。
恐る恐る、ポストを覗く。
圭介を完全に遠ざけたあの夜から、手紙は届かなくなった。それでもこうして郵便物を手に取るとき一瞬身構えてしまう。
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――「ココ」
買い物帰りの背中に声を掛けられた。
俯いたままで、近づいてきた足元を見る。
猫なで声の正体はすぐにわかった。女装をしていない道哉は足先を広げて歩く。
「無視すんなって。ごめんって。謝るからもういいだろ?」
「……」
「いい加減機嫌直せって」
怒っているわけではなかった。
「……」
わざと、明後日の方向に視線を向ける。
「悪かったって言ってんだろ。そんなに振られたのが面白くなかったのかよ」
あの日、私は夜の公園で道哉に振られた。
――私のカレシになって。
「演技ってこと?」
「演技じゃなくてもいい」
「どういうことだ?」
「元サヤってこと」
「……」
あのあと道哉は言った。憎らしいほどきっぱりと、いやだ、と。