忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
16.素直になれない理由
「言っとくけど、あのとき俺、本気で別れるつもりなかったから。おまえが彼女としてそっけないから、ちょっといじめてやろうと思っただけ。おまえのうろたえる顔が見たかった。ひょっとすると泣いて縋ってくるかもと思った。そしたらおまえ、なんつった? それもそうだねって。引くぐらい軽く言ったんだぞ」
「……」
今さらの真実に唖然とする。道哉とは同じ気持ちだと思い込んでいた。
「でもさ、でも、道哉はもう私とヨリを戻す気はないんでしょ?」
恐る恐る聞くと道哉は豪快に噴いた。
「あたりまえだろ。俺たちの間にこれ以上のなにが生まれるっていうんだよ」
「だよね」
互いの認識にほっとしていると、道哉が声を落とした。
「そういや、圭介とはどうなった?」
「どうなったもなにも、別れたんだからあれきりだよ」
「ふーん」
「もうやめて、この話題……」
性懲りもなく泣きそうになる。
道哉が渋い顔を向けた。
「圭介が俺んとこに来た」
「! ……ど、うして」
絶句したあとで、呟いた。
「あのとき俺を付けたんだろ、マンションの前で待ち伏せされてつかまったわ」
「……」
心臓が勝手にバクバクと波打つ。
圭介はまだ、私をあきらめていない――その事実にどうしようもなく満たされていく。
「……それで、どうしたの」
「まあ、いろいろ話したけど」
「だから、その、いろいろを、教えて」
切羽詰まった自分の声はとても貪欲だった。
「その前に、おまえはどうしたいの?」
「……」
「本心では結婚したいんだろ」
「……」
「あいつと離れたくねえんだろ」
「……」
追い詰められて、私は苦しくて、泣き出さないよう必死に涙をこらえる。
「それ言わなきゃなんにも進まないぜ」
「……」
「ほんと、素直じゃないよなあ」
道哉は空を睨み、わざとらしい息を吐いた。
私の気持ちは隠しようがないほどに全身から漏れているのだろう。
けれど、私がどうしたいかなんて言えない。その権利はないから。
「じゃあ、ここからは俺の独り言だ。誰にも聞かれてないと思ってるから悪口とかガンガン言うかもしんないけど、まあ、それは俺の自由だからな」
……なんでもいい。
圭介がなにを話したのか一字一句漏らさず教えてほしい。
道哉に背を向けて、私は“独り言”を待った。