忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
――まいったよ、イベントの仕事終えて帰ってきたらマンションの前にいたんだよな、あいつ、圭介。俺、女装してんのに。……騙せねえとか、マジむかつくわ、って悔しがったのはとりあえず置いといて。
会うなり「心菜と別れてください」って言ってきた。敬語使ってるくせにすげえ挑発的で、ガタイいいから俺殴られるかと思ったわ。けど俺は幼なじみの元カノのために頑張って演技を続けたぜ。「フラれたヤツはおとなしく引っ込んでろよ」って。
私は心臓を鷲掴みにされながらも、道哉の“独り言”に耳を傾ける。
――あいつも途中からタメ口になってきてさ、「心菜を振り回すな」「いまさら邪魔すんな」「おまえに心菜を幸せにできるわけない」って、体も声もデカいしめんどくせぇのなんの。つうか俺、ただの幼なじみの元カレじゃん。なんで年下の男におまえ呼ばわりされて、こんな目に遭ってんの、しかも女装中に、ってハナシ。
最初と言っていることが違う……。
指摘したくても、胸が苦しくなって声が出ない。
――やり合いながら、こいつ、どうしたもんか……と思ってたら急にはっとした顔になって「もしかして心菜は、親が結婚に反対してると思って、それで別れるなんて言ったんですか……」って。わかりやすく落ちるからさ。仕方なく教えたやったのよ。「きみに駆け落ちする勇気でもあれば、ココの気も変わるかもな」って。そしたら「ありがとうございます」って泣き笑い。……おもしれえな、あいつ。
「おっと、電話……」
“独り言”の途中で道哉のスマホが鳴った。
「――伝えればいいわけね。……まあ。――そうだな、その方がいいかもな」
私は買い物用の手提げバッグを左から右の腕に持ち直し、聞くともなしに背中で道哉の声を聞きながらハンカチで首筋の汗を拭った。
通話を終え、道哉がおもむろに言った。
「ココ、今の圭介だ」
「えっ」
反射的に体が跳ねた。