忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜

「なんであんたたち、繋がってるの?」
「俺が望んでそうなったと思うか? 半ば強制的に番号交換させられたんだよ」
「っていうか、なに今の会話……」
 動揺が私の中で騒ぎ出す。
「ああ、明日“圭介が会いたいってさ”」
「――っ」
「っていうのは嘘で、実際にはおまえと継母を会わせる計画らしい」
「っ!」
 驚愕で息継ぎができなくなった。
 喉に引っかかった声はそのまま歪に体内に戻っていった。

「場所は『アフタヌーン』っていうカフェだそうだ。わかるか?」
 ……わかるもなにも、若葉さんと暮らしていた頃、一緒に買い物に行けば寄り道したカフェだ。
「誤解を解きたいんだってよ。継母がおまえらの結婚に反対してないって」
「……誤解、……話すの、なにを?」
 私は頭を振った。
 恐怖が溢れて止まらない。
 ――若葉さんも、圭介に騙されて、来るの……? 私は、謝ればいいの? それでなかったことになるの……、だって、あの手紙……、届かなくなったのに……
 独り言が零れ落ちる。

「馬鹿だよな、圭介。俺は数日前に会ったばっかりの男の、嘘の片棒は担がねえよ。なあ? 当然じゃん。幼なじみの元カノに全部、本当のことを伝えますよっと」
 恩を着せる道哉は、さらに恩を上乗せしてきた。
「ひとりじゃ不安だろ? 俺一緒に行ってやろうか? まあ、当然交換条件は付けるけどさ」
 私は力なく、首を落とした。考えられない、なにも。 
 

「――なあ、なんかおかしくねえか?」
 ふいに続いた沈黙の中、道哉の声が急に冷えた。

「私、行かない」 
 なにかおかしいって? そんなの、ぜんぶ、なにもかもだ。
「行けないよ、無理だ」
 両手で顔を覆った。
「そうじゃなくて」
 道哉の手が私の両手を掴んだ。

「つうか、へんだぞこれ」
「……へん?」
 険しくなった表情にぼんやり焦点を当てた。
 道哉は早口で言った。
「結婚の障害が継母だって、圭介はなんで知ってる?」
 その言葉は、耳を掠めて頭の中を行ったり来たりした。
「……え?」
 混乱が強くなって、言葉の意味が頭に入ってこない。

「思い返したら違和感だらけだわ。うちのマンションもあの日、尾行されたと思い込んでたけど、俺をつけようと思ったら公園に入ってこなきゃ無理だ。おまえ、圭介を見たか?」
 私は強く左右に首を振った。圭介は公園に来ていない。

「それにあいつ言ったんだ、ココを振り回すな、いまさら邪魔するなって。俺らがつきあって別れたこと、知ってなきゃ出てこない言葉だ」
「――!」
 時間をかけて道哉の疑念が何十にも重なった層の向こう側から、ようやく私の耳に入ってきた。

 道哉は自分の側頭部を両手でがしがしと乱暴に掻いた。
「俺さ、あいつにどこかで会ったことがある気がするって、言ったじゃん」
「……」
 覚えている。
 ――家に何度も来てるし、そのときにすれちがってるとかじゃないの
 私はそっけなく答えたのだ。
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