忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
+
段取りはすべて道哉が行った。
私は道哉の言うがまま、道哉と背中合わせのボックス席に座った。
昭和の時代から営業している“カフェレストラン小峯”。
動線に置かれた観葉植物と衝立の役割を兼ねたベンチ椅子が、個室のような雰囲気を作っている店だ。
他の客の視線を気にせず過ごせる。それでも私は席に着いた途端、圭介から見つかってしまう不安から体を縮め、奥へと押し込めた。
「――よ」
唐突に、道哉の声がした。
私は飛び跳ねそうになる心臓を押さえ、より身を屈めた。
「待たせてすみません」
「時間通りじゃん。まあ、座って」
「失礼します」
「こっちまで来てもらって悪かったね」
「いえ」
圭介の声……、
いつも私に愛を語ってくれた声がすぐそこにある。
「電話では何度か喋ってるけど会うのは三度目かな? この前は俺、女装だったけど」
「そう、ですね」
探るような声だった。
「場所、迷わなかった?」
「大丈夫です。店の前は何度か通ってるし」
「この店さ、中に入ったら広いんだけど通りからは小さな店に見えるよな」
「……ですね」
注文したアイスコーヒーが席に運ばれてきた。
店員が離れるとすぐ、道哉は雑談を止め唐突に流れを変えた。
「俺さ、圭介クンには悪いけど、きみの母親とココを会わせることには協力しても、ココと別れる気はないんだよね」
わざと挑発しているのだろうが、圭介はまだ言葉を発しなかった。
「俺らつきあい始めたばっかりで、今が一番イイ時期だし。別れるのはちょっと、できないね」
ストローを突っ込んで掻き回したのだろう、グラスに氷がぶつかる乱暴な音がした。
「……あなたは、俺と心菜の味方じゃなかったんですか」
「そう勘違いさせちゃったならごめん」
わざと茶化すような、それでも強い口調を崩さない道哉のせいで、しばらくテーブルに沈黙が流れた。
「……どうせうまくいきっこない」
圭介のくぐもった声が聞こえた。
「……またつきあってもただ楽なだけで」
……。
私は口元を手のひらで押さえた。
やはり圭介は道哉と私のことを知っている。