忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「そうなんだよ、親父。心菜は亡くなったお母さんの代わりに家のことをしてきたんだ。なんでも出来るんだぜ。料理も裁縫も」
「それはありがたい」
「だろ?」
二人の視線が母親へと向かう。
「うちの母さん、料理が苦手でさ」
圭介がわざと大きな声で耳打ちしてくる。
「母さんの料理で一番食えないのがカレーなんだ、信じられないだろ」
悪口には愛がこもっていた。圭介がよく口にする私への気持ちと同じ響きだ。
――『人間は完璧じゃなくていいと思うんだよね。欠点って、他人から見たら愛しかったりする。だって俺は、心菜が自分で嫌いだっていう頑固なとこ? そこもすごく好きだし』
にいっと笑って、言った本人より恥ずかしくなるこっちの立場もお構いなしに、さらに深く見つめてくる。
「おかげでうちのカレーには必ずとんかつやハンバーグが入れられているわけです」
圭父が付け加えたそれに圭介が口元で手のスピーカーを作る。
「ないときは、卵の黄身や納豆で代用だよ」
「調味料も大活躍」
圭父のスピーカーも向かってくる。
「心菜さんもそのうち食べることになるぞ。覚悟しておいてくださいよ」
「大丈夫、俺がコツを教えるから」
息の合った親子の会話が続く。
すべては私をリラックスさせようとする優しさからだ。分かっているのに、笑顔が消えていく。頬が引きつってしまう。
「心菜さんのお父さんは再婚されないのかな」
何気ない質問に鼓動が早くなった。一番出されたくなかった話題がこんなにも早くやってきてしまった。