忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜

19.過去も、今も、

 
「心菜、ごめん……、言い訳、聞いて」
「……」
 私は両手の指で溢れる涙を拭った。
「聞いてあげる」
 ……どこまでも素直じゃない自分が嫌いだ。
 でもそれさえも圭介は許してくれるという確信がある。

「俺んちに来る前に、母さんが“心菜の知ってる人だ”ってこと、話せなくてごめん――こんなにこじれるなんて思ってなくて。俺たちの考えが、甘かった」
 !
 ……俺たち、ってことは、若葉さんも……。

 私は今、初めて真正面から“あの日”を振り返った。

 ――あの日は、圭介も若葉さんもずっと笑顔だった。
 ふたりは私を和ませようしていたんだ……。

 なのに私は、過去が暴かれるのが怖くて、勝手に自分を追いつめた。


「もっと早く打ち明けておけばよかった……けど引かれるって。心菜が持ってる俺のイメージ壊したくなくて、先延ばしにして」
 圭介がテーブルにつくぐらいに深く頭を下げた。
「ごめん。ストーカーみたいなことして――ごめん」
「圭介……」
 なんといえばいいか、わからなくなる。
  
「それから結婚のこと、恥ずかしい話なんだけど土壇場にきて親父が……」
 圭介は言いにくそうに、実は、と続けた。
「母さんが心菜のお父さんに会ったら、昔を思い出してドキドキするんじゃないかって言い出して、それで揉めて」
 !
 ……絶句した。

「これから親戚になるのにヤバイって思ったから、母さんと一緒に必死になだめた。婚姻届けは障害を取っ払って出したかった――心菜を傷つけないように……したかった」

「そう、だったの……」
 思ってもみないこの騒動の理由に、全身の力が抜けた。
 
「あとね、心菜。母さんたちが別れたのは心菜のせいじゃないんだよ」
「……」
 そんなわけない。
 でも、慰めてくれる圭介のために静かに唇を横に引いた。
「本当だよ! 心菜に気を使ってるわけじゃなくて」
 圭介は私の表情を読み取ったのか語気を強くした。 
「親父たちの結婚は簡単じゃなかったんだ。実際、本気で振られてたし。母さんが『結婚は子供のいない人としたい』って言ったから」
「え?」
 眉が寄ってしまった。 

「母さんは、心菜のお父さんが別れ際に言ったことをずっと考えてたんだって」
「……私のお父さんが?」
 突然出てきた父の話題に心臓がざわついた。圭介は慎重な声色を向けてきた。
「心菜のお母さんの遺言があったって」
「遺言……」
 初めて聞く話だった。
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