忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
20.あの頃の私たちのこと
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若葉さんは待ち合わせのカフェで、ひとり所在なさげにしていた。
壁掛けの時計を見たり、周囲の客に何気なく視線をむけては、俯いたり――
ガラス張りの店内にそんな若葉さんの姿を認めた瞬間、やっぱり私の足はすくんでしまった。
「……」
『圭介の母親』として対面したあの日の衝撃が、一瞬にして目の前に現れた。
逃げ出したい――
だけど……
圭介を想い、勇気を出して足を踏み出した。
若葉さんはそんな私を見つけて高々と手をあげて迎えてくれた。浅黄色のサマーセーターとタイトな白いパンツ、肩の上ではねるヘアスタイルは、黒い服を着ている私とは対照的で、眩しかった。
「……遅れて、ごめんなさい」
「いいのいいの、座って」
まるで普段会っている友達みたいに、若葉さんはとてもラフに私を巻き込んだ。
「荷物、ここに置いて」
座ることすら躊躇う私に四人掛けのひとつの椅子を引いて、遠い記憶の中の、くしゃっとした笑顔を向けてきた。
「なに飲む?」
緊張しながらそっと座ると間髪入れずメニューが開かれた。
「えっと」
若葉さんの空になったグラスを見た。溶けた氷と一緒にミントの葉が沈んでいる。
「それとも何か食べる?」
「だ、大丈夫です。アッサムティーに、します」
咄嗟にあの頃の若葉さんがよく頼んでいた紅茶を指していた。若葉さんがまた、くしゃっと笑った。
「ここのアッサムティー美味しいんだよね。私も二杯目それにしよう。――ここ、冷房強いよね」
口元に手を添えた顔が近づいてきた。
「!」
一瞬にして月日が巻き戻った錯覚が起きた。
「……若葉さん、髪切ったんだね」
謝罪も敬語も、唐突に私の辞書から消えてしまった。
「そうなの。ちょっとイメージチェンジしたくなったの。短すぎない?」
若葉さんは会話を続けてくれた。
「ココちゃんは昔と同じ長さだね」
「私は、あんまり冒険できないの」
だから私も若葉さんの返してくれたボールを拾って、投げる。
久しぶりに呼ばれた愛称が軋むような痛みを連れて、溢れてくる。
店員がアッサムティーを運んできて、テーブルの上で薔薇の絵柄のカップに最初の一杯を注いでくれる。残りの紅茶が入った大きめのポットには冷めないようにティーコジーを掛けてくれた。
「――私ね、若葉さんを圭介の家で見たときね、あのとき、」
謝らなければならないのに、言葉は喉の奥で勝手に止まった。
息を吸おうとするだけで涙が出そうになり慌てて天井に視線を上げた。