忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜

「ココちゃん、ごめんね」
 若葉さんの手がテーブルの向こうから伸びてきて私の剥き出しの腕を撫でた。

「驚かせちゃったよね、やり方、間違えちゃった、ココちゃんに辛い想いさせちゃった」
「……」
 私は強く、左右に首を振った。
 若葉さんに対して後ろめたさがなければ、すごいね、こんな偶然があるんだね、と笑い合えたかもしれないから。

「……」 
 涙を堪えた。
 こんなに素敵な人を、あのときなぜ私は『お母さん』と認めなかったのだろうかと、どうしようもないことを、悔いた。

「圭ちゃんと一緒に私もあれこれ知恵を絞ったんだけど、まず会っちゃおう! そしたら案外すべてうまくいくかも! って結論になったの。それがこんなことになっちゃって」
 ……。
 若葉さんはとてもストレートで、画策とは無縁のところに生きていて、それは今も健在なのだ。

「ほんと、ごめんね」
 私は大きく首を左右に振った。
「……若葉さん、謝らないで」
 どんなシチュエーションでもきっと変わらない。私の奥に居座っている罪悪感が、必ず同じ行動へ導いたはずだから。

 
「――若葉さん、知っていたんでしょう」
 私は視線をテーブルに落としたまま切り出した。
「私がいろいろ、若葉さんにやってたこと」

 若葉さんはちょっと驚いた顔つきになって、そしてまた、くしゃっと笑った。

「いろいろあったよね。男友達が次々に会いに来たり、近所のおばさんたちにスカートが短いとか、爪の色が派手とか、ヒールが“お母さん”らしくないって注意されたっけ。そうそう、ココちゃんたちの学校の先生にもよーくお説教されたなあ、懐かしいなあ」
 その言葉にも表情にも、陰気なものは何もなかった。
 
「あの頃のココちゃん、いろいろ考えてすごいなって思ってた。ただ、ココちゃんが痛い想いをしなきゃならない悪戯は、ちょっと苦しかったな」
「ごめんなさい」
 過去と今とを並べて言った。

「ごめんなさい」
 もう一度言った。今度は噛みしめるように。

 若葉さんは私の腕にまた触れた。
「もういいよね」
 ね? と強く念を押された。

「――うん」
 私は、こくっと首を落とした。
 傷ついた側の若葉さんが私を許してくれるなら……。


「ふふ」
 急に若葉さんが思い出し笑いをした。
「笑っちゃうようなことがいっぱい起きたよね」

 店内の時間はゆったりと流れていた。
 若葉さんは私の行為を思いつくままに口にしていった。共有しているあの頃の記憶がひとつずつ笑い話に変わるたびに、私の罪は風船が割れるように消えていった。

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