忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
――「もしかして、若葉さんが用意した弟の持ち物を、朝起きて私が抜き取ってたことも知ってた?」
「うん! やられたーって思った」
若葉さんは笑って、両手の拳を顎の前で振って悔しさを表現した。
「白いシャツが緑色になったり」
「ぎょっとした!」
色落ち注意と手洗い表示の衣服を、若葉さんのふりをして私が洗濯機の中に入れたのだ。
「雑巾とバスタオル、一緒に洗濯機で回したり」
「あった、あった!」
「私の授業で必要な工作用品を買い忘れたり」
若葉さんが買い物カゴに入れた商品を、私が棚に戻した。
「そうそう! 慌てて買いに行ったけど店は閉まってて」
「若葉さんが洗濯物干してるとき、私の塾用のバッグ、雨水入りのバケツにどぼん」
「あれはごめん。まさか落ちると思ってなかったの。参考書もノートも全部水浸しになっちゃったんだよね」
「落ちるのは時間の問題だったの、理科の授業でやった実験を試したんだ」
「知らなかった!」
「じゃあ、弟の運動着のゼッケンがすぐ取れちゃったことは?」
「えっ、それもココちゃんだったの? それは私のお裁縫がヘタだからだと思ってた」
若葉さんは身振り手振りを交えて驚いたり悔しがったりしてくれた。
その空気を守るために、私もわざと明るい口調を保つ。
だけども心の中では、“ごめんなさい”を言い続けた。
ふいに言葉が途切れ、私たちを柔らかく包んでいた空間に、必然の沈黙が出来た。
「――ココちゃん、私のわがままを聞いてほしいの」