忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
21.未来のための約束
「うん、大丈夫……、私、それでいい」
若葉さんが居住まいを正したとき、その声色と表情から察した。
――若葉さんは大切なことを告げるために今日、私に会ってくれたのだと。
数秒先に若葉さんが言うだろう言葉に、逆らうことはしない。
「ココちゃんたちの結婚には賛成。本当だよ。だけど……、家族づきあいはできない」
私たちの結婚を祝福してくれないのは圭介のお父さん――、
あの、おおらかで愉快で若々しい、圭父だ。
「……このこと、圭介には?」
「言ってない」
「わかったよ」
私は口の端を上げて頷いた。
……私は頑なで、礼儀知らずで、不機嫌な息子の嫁でいいよ。
“あの日の私”を、これから先も続ければいいね。
「圭介ひとりだけなら、今まで通りに、おうちへの行き来はできる?」
私の心配に、若葉さんは唇を強く結んで頷いた。
「良かった」
私は心の底から言った。
それだけ約束してもらえるなら十分だ。
「圭ちゃんをよろしくお願いします」
深々と頭を下げた若葉さんは、私がよく知っている顔だった。父に愛されているときの、父のそばにいたいと願っていたときの、一生懸命な、貪欲な、愛の顔だ。
私にも愛する人が出来てようやく分かった。
愛は残酷で、その愛以外は取るに足らない。
+
店を出て、若葉さんは駅方面へ私は自宅へゆっくりと向きを変える。
外はまだ明るい。
「あ、そうだ。若葉さん、あのね、カレーのこと!」
私は努めて、陽気な声を投げた。
「カレー?」
若葉さんが首を捻った。
「今も私が教えたレシピで作ってる?」
「もちろん」
「あれね、嘘っぱちなの」
「えっ」
若葉さんが仰け反った。
「だからもうあのレシピ、忘れて!」
「もーっ!」
お互い笑って少しずつ、また足を進める。
――今度本物のレシピ、教えるから許して!
そう言えたかもしれない未来をあきらめて、私は手を振った。
「幸せにね!」
「若葉さんもね!」
少しずつ離れながら、大きく手を振った。子供みたいに、あの頃できなかった――無邪気な私になって両手を振って、別れた。