忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「若葉さんのこと、いまさらだけど、ごめんね。私のせいで結婚できなかったことずっと謝りたかった」
もぞもぞしながら告げた。
謝るまで、こんなに時間がかかってしまった。
「……」
父は冷えたビールグラスをテーブルに戻した。
「父さんたちの別れがココのせいだって? ココの自意識過剰はすごいな。自分にそんな影響力があると思ってたのか」
「ちょっと、ひどいな」
父の軽口に乗った。「でも」
決して頭から離れることのなかった問いを、私は迷った末に口に出した。
「若葉さんと結婚していたら、と考えることはなかった?」
父は神妙な顔を作り「あったよ」と言った。
「……」
そう、だよね……。
小さく、唇を噛んだ。
父はたっぷりと言った。
「彼女と結婚していたら、今頃ココには世話を焼いてもらえなかったんだろうなとか、ココとの思い出はこんなにたくさん作れなかっただろうなとか」
「もう冗談ばっかり。私真面目に話してるのに」
「ははは。でも本当だ。結婚は縁やタイミングだ。使い古されている言葉だが、それが父さんにはしっくりくるなあ。ココには内緒にしていたけどな、あれから父さんは数人とつきあった」
指を数える父に、えっ! と思わず驚きの声が出た。「ウソでしょ?」
「父さんは意外にモテる」
「いや、それは……」
それは、そう言われるとそうなのだろうな、と思うのだが、父が若葉さん以外の人と恋愛をしている姿が全く想像できなかった。
「まあとにかく、父さんは適当にやっている。気にしないで嫁に行きなさい」
「……そのことなんだけど」
私はひと呼吸取った。そして一気に言った。
「圭介と話し合って家族づきあいはしないということに決めたの」
「それはどういう意味だ?」
「ええと、両家の行き来とか、冠婚葬祭とか、節目のお祝いとか、かな」
「結婚式はどうする」
「圭介とふたりでやろうかなって」
「……」
父の表情が翳っている。
黙っている間、父の感情はたぶん乱れ、飛び、葛藤しているんだろう。だけど――次の言葉は知っている。
「そうか。結婚する本人たちがいいようにしなさい」
父は、やっぱり父だった。
「うん」
……お父さん、ありがとう。普通の結婚じゃなくて、ごめん。
心の中で言った。
あたたかい手のひらが私の頭の上にぽんぽん、と降ってきた。
それからは、夜空にゆらゆらと揺れる月を眺めた。
ほどなくして――――
圭父が私の家へ来た。