忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
必要ないと圭介が説得したようだが、“けじめ”だと譲らなかったらしい。
圭父は終始緊張していた。それを見て、あの日の私のようだと思った。
新調したスーツと靴、整えた髪と引きしめた頬。隙はどこにもなく、父への対抗心が端々に滲んでいた。
父はというと、親しみを持って圭父をもてなした。
仕事のことからゴルフのことまで話題を振って圭父を和ませようとしていた。圭父の態度が砕けたなら「飲みにでも行きませんか」と誘うだろうということが、傍から見ていても感じ取れたし、一見すると余裕があるようにも映った。もしかしたらそれも圭父の気持ちが軟化しなかった理由かもしれなかった。
低い声と丁寧な口調を最後まで崩さず、圭父は帰っていった。
「大人びた人だなあ」
見送った圭父の背中が見えなくなって、父は頭を掻きながら言った。
……そうでもない、と思うよ
言葉には出さず、心の中だけにとどめた。
圭介との結婚を前に、また真っ白な手紙が届き始めた。
それが“誰からか”を、私はもう詮索しないことに決めた。
圭介には私が必要で、私にも圭介が必要で、大切なことはそれだけだから。
私たちの新生活は、既に亡くなっている祖父母の家を少しリフォームして、そこで暮らすことで落ち着いた。
母が育って、私と弟が幼少を過ごした家で今度は私と圭介がお世話になる。
結婚が決まってから圭介はほとんど毎日、私の家に来ていた。
あるとき、圭介が父に言った。
「本当は同居しますって言えたら格好良いんですけど、俺、結婚したら心菜とすっごくイチャイチャしたいんです。そういうの、お父さんの前では気を使うっていうか」
和やかにすき焼きを囲んでいたのに、悪びれもせずに言い切った。
「子供が生まれるまでは心菜をひとり占めしたいんです。すみません、子供ができたらお世話になりますんで」
「!」
「はは」
都合のいい宣言に私は思わず絶句して、父はというと、珍しく大口を開けて笑っていた。
笑ったまま言った。――圭介くんはおもしろいなあ。
「ココがイチャイチャするところなんて想像もつかないけど、見てみたいもんだね」
父は興味津々、と言う顔を向けて私を焦らせた。
「なかなかイチャイチャさせてくれないんで俺、結婚を機に特訓しようと思って」
「ちょ、ちょっと圭介、なに言い出してんの」
「あっはっは」
父はお腹を抱えて笑い、また、圭介くんはおもしろいなあ、と言った。
結婚式は岬のチャペルですることになった。
――キャンセルがあったんだって。
私たちが初デートをした記念の地に建つチャペルを、ある日圭介が決めてきた。
――キャンセル待ち狙って申し込んでたんだよね、心菜のカレシになった時に。ほんとラッキー!
――ええっ?
さらっと爆弾発言をしてから、目を輝かせ人の不幸にラッキーだなんていう圭介に呆れたが、でもこれが圭介という人なんだよなと苦笑いで、立派なパンフレットに手を伸ばした。
結婚式まで一週間を切った。