忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「新婦さまはこちらへ」
スタッフに促され、私も衣装室へ入った。
男の圭介はひとりで着替えができるけれど私の場合はそうはいかない。
「仲がよろしいですね」
「すみません」
回り込んできたスタッフによって手早くベールとドレスを脱がされた。身体をしめつけていたきついコルセットが外れ、思わずよろめいた。――すみません。
白とグリーンの淡いストライプの壁に左手をついて、また謝る。
「解放されましたね」
見慣れた光景らしく、スタッフが労ってくれる。
「ええ。やっと普通に呼吸ができます」
苦笑いするしかなかった。花嫁がこんなに窮屈な想いをするなんて知らなかった。
私がひと呼吸取っているあいだに、スタッフはボリュームのあるドレスを手際良く専用のハンガーに掛けて、ベールと靴を箱の中に仕舞い終えていた。慌てて、借りていたアクセサリー類を外して返した。
「当日のお天気も晴れだといいですよね」
「そうですね、せっかくなら、そのほうが」
「でも雨の日も決して悪くはないんですよ、幻想的で厳かな雰囲気になりますよ」
「そうなんですか、それじゃ雨がいいかな」
「とはいえ晴れていると海がやっぱりキレイですから」
「ええ、今日もすごく素敵でした」
他愛ないやりとりをしながら着替えた。
真っ赤なベルベットのスツールに腰を落としてストッキングを穿き、ほっとひと息つく。
目の前の大きな鏡の中にあまり馴染みのない柔らかい頬の自分がいた。
不思議な気持ちで眺めて、また笑う。
立ち上がりジャケットに袖を通した。
圭介はもう着替えを終えただろうかと意識をむけたとき足に違和感を覚えた。この、むず痒さは――――
ドダッ、ガグッ、
鈍く重い音が隣の部屋から聞こえた。何かがぶつかったのか倒れたのか、とにかく日常では聞き慣れない衝撃音だった。