忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
 訝しく思いながら窺うようにして家の中へ入るとリビングに知らない女の人がいた。
 父のそばで、大きな瞳を揺らして笑っている。
 同級生のお母さんや近所に住むおばさんたちとは違う、けれど高校生や大学生のおねえさんとも重ならない。『女の人』という別次元の大人、そんな印象だった。


「ココ、こっちに来て座りなさい」
 私の身体は固まったまま動けなかった。正方形のテーブルには父と弟と私の定位置がある。いつもひとつ空いている場所に、見知らぬその人が座っていることに胸騒ぎが止まらない。
「南田若葉(みなみだわかば)さんだ。ご挨拶しなさい」
 まだなにも聞かされないうちから拒絶反応が出た。
「……」
 黙っていると、よろしくねココちゃん、と先に言われた。
 初対面なのに馴れ馴れしく呼びかけられて気分が悪くなった。
 無言でくるりと踵を返す。背中に、こらココ、行儀が悪いぞ、といつもより気取った父の声が追いかけてきた。そのときに思った。もしかしたらこの女の人はこれからも家に来るかもしれない、と。

 嫌な予感は当たることが多い。
 三泊四日の修学旅行から戻ると家にはあたりまえのように若葉さんがいた。


 ――「お父さんとどういう関係?」
 ふたりになったのを見計らい聞いた。若葉さんは身を屈め目線を私と同じ高さにし「お友達です」と笑った。ほんとうに? 念を押したかったけれど父が戻ってきた。

「ココ、お腹空いただろう、すぐ出来るからな」
 若葉さんと一緒にご馳走を作ると張り切る父は、終始浮かれていた。


 若葉さんは雑貨店で働いている。
 父は取引先への贈答品を買うためにその店へ立ち寄ったらしい。
 とにかく、父は若葉さんと出会ってしまった。
 娘と息子がいること、若葉さんとの年齢差が十才以上あること、亡き母の両親が私たちの面倒をみてくれていること――。そんなしがらみを物ともせず、父は真っ直ぐに恋を始めた。
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