忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
――「道哉くん、もういいって。こっち来て座ってよ」
あの日圭介は、穿通外傷で出血性ショックを起こした。医師の懸命な蘇生処置により峠は越えたと言われてもなかなか目を覚まさなかった。
私は毎日圭介の手を握って呼びかけた。戻ってきて。戻ってきて。戻ってきて。
あれほど何かを願ったことはなかった。
『サイアク』の投下に怯え、恐れ続けた神様にではない。圭介が夢の中で会っていた意地悪な神様にでもない。私は圭介自身に願った。戻ってきて。戻ってきて。戻ってきて。
だけど圭介の意識は戻らなかった。
その理由を恐怖の中で必死に考えて――私はようやく、祈る以外に出来ることを実行に移した。
若葉さんに、「圭介と一緒に、私も家族づきあいがしたい」と伝えた。圭父に、「何年、何十年先になってもいい、あなたの娘にもなりたい」と伝えた。
誤解を誤解のままにしておいて解決できる未来などないことを、瀕死の圭介が教えてくれた。だから私は望む未来のために抗う。仕方ないことだなんて、私みたいな人間は、あきらめることしか許されないだなんて、この先二度と思わない。――絶対に。
深く、心の底から誓った。
圭介の意識が戻ったのはまもなくだった。
ベッドから自由に動けない圭介が必死に手招きをする。
それでもじっとしている道哉に圭介はとうとう焦れた。
「心菜、道哉くんをこっちに連れてきて」
私は苦笑いで、道哉の背中をドアから引き離してそのまま押した。
ベッドの足元へ恐る恐るやってきた道哉は、そこで足を止めてまた項垂れた。
「俺がグズグズしてたせいだ。……ごめん」
道哉は私たちの結婚を見届けたら、遅いかもしれないけれどまみちゃんに本当の気持ちを伝えに行くつもりでいたらしい。まみちゃんがまだ自分を好きでいてくれたら、今度こそまみちゃんの手を離さないで一緒に乗り越えていこうと。
「それよりカノジョさんの親に感謝だよ。こんなすごい個室にも入れてもらったし至れり尽くせりなんだからおつりがくるって」
似たようなことを圭父が言って、圭介を笑わせていた。
もう回復していくだけだと安堵してからは、圭介の意向を酌んで、騒ぎ立てるようなことはしないと決めたようだった。