忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜
「俺の入院生活めっちゃ快適だよ!」
傷口の痛みを我慢して圭介が両手を広げておどけても、道哉は身動ぎもしない。
「……」
圭介の目配せもあり、私も宥め役に回った。
「圭介はもう大丈夫だから。道哉が気にし続けたら、圭介に申し訳なくて私だって、ここにこうして立っていられないんだよ。ね、圭介」
「そうそう! だから道哉くんも気にしないで。じゃないと心菜も気にするから!」
「……ごめん」
どれだけ言葉を尽くしても道哉は表情を曇らせたままだった。
道哉にとってまみちゃんは自分同等の、もしかしたらそれ以上の存在なのかもしれない。まみちゃんのしたことを自分と切り離しては考えられないほどに。そしてそれは、まみちゃんにも言えることだ。
――まみちゃんは、元カノ(私)とヨリを戻したという道哉の嘘を信じた。
けれど私は圭介とつきあっていたから混乱したのだろうと思う。
どっちつかずの私の真意を確かめようと、私の勤めるビルへ来た。
まみちゃんは私と繋がっている人を探した。その中のひとりが同じ部署の鮎川さんだった。
ふたりは連絡先を交換し、私が“結婚退職”すること、その相手が“幼なじみ”だということが伝えられた。
まみちゃんは私に手紙を送り続けた。
心の文字で書いた手紙はまみちゃんにしか見えない。
『彼を幸せにしてください。私には出来なかったことだから。彼をどうぞよろしくお願いします』
けれど私が結婚するのは圭介だ。
憎しみは私にではなく、道哉にとって邪魔な存在である圭介へと向かった。
心を偽り、道哉と私を祝福した時点でまみちゃんは壊れ始めていたから、呻き倒れた圭介と自分が握りしめている包丁の鮮血を見た瞬間に、世界が寸断されてしまった。
「道哉くんのカノジョさんも早く退院できるといいね。すぐに俺も元気になるし、そうしたら全部元通りだよ。な、心菜」
「うん」
私は静かに頷く。
そんな風にならないことを私と道哉は知っている。すべてなかったことには出来ない。まみちゃんがそれを望んでいないからだ。
――まみちゃん、今日は謝りにきたの
私が最後のお見舞いに行った日だ。