忘れられないひと〜結婚の挨拶に行った先の継母は、私が昔追い出した父の恋人でした〜

「ここを離れようと思う。まみが退院できたら、圭介に謝りにいってけじめをつけて、新しい土地で生きていくよ」
「そっか」
 私はただ、聞いた。冷たい雨が降っていて、傘に当たる雨音とすれ違う車の走行音に意識を半分あずけていた。
「まみは人を傷つけることに慣れてない。おまえらが許しても解決しないんだと思う」
「うん」
「せっかくまみを楽にしようと謝ってくれたのに、悪い。けど何年先か、何十年先か、時が解決してくれたらと願う。それまでおまえとも圭介とも会わない」
「うん」

 人は、哀しい。
 取り返しがつかないことなんて、本当はそんなに多くない。自分の心が頑なに決めてしまうだけ。
 私もそうだった。嫌われて傷つくくらいなら誰とも深く関わらないと決め、そうしていれば安全だと信じていた。

「たとえこの先一生会うことがなくてもおまえは俺の親友だから。元気でやれよ」
「そっちもね」
 私はわざとさばさばと言い放つ。
 恋人でも、家族でもない。けれど道哉の幸せは自分の一部だと言い切れる。
「行先は伝えないで行く。いいよな」
「うん、いいよ」
 どこかで人生を楽しんでいてくれたらそれでいい。だけどいつか笑って会える日がくると――期待はしていてもいいよね。まみちゃんが自分を許して、許されることに甘えられる日が来るまで。

「ココ、幸せでいてくれ」
「……」
 涙はどうしようもなく、頬に落ちた。空は私たちの別れを見守るために雨を降らせたのだろうか。晴れていたら、たまらずに歪んでぐしゃぐしゃになった表情を傘で隠すことはできなかった。
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