魔法が使えないと虐げられていた令嬢は、余命わずかな辺境伯の妻になりました
第3話-2 売られる
なんとか体調は回復したものの、テニエス伯爵家の屋敷での扱いは変わらない。
そうして一年、二年と月日は過ぎていった。
やがて十八歳となったクリスティアーナには、伯爵令嬢だった頃の面影はまったくなかった。髪も肌もすっかり艶をなくし、ガリガリに痩せ細ってしまったのだ。
そんなある日、クリスティアーナは突然、テニエス伯爵の執務室へ呼び出される。
そこにはテニエス伯爵だけでなく、クラウディアとヴィッキーも揃っていた。
「クリスティアーナ。お前に縁談が決まった」
「……縁談?」
思いもしなかった言葉に、クリスティアーナは驚いた。
「喜べ。お前もようやく、この家の役に立てる機会ができたんだ」
テニエス伯爵は、ほくほく顔だ。実のところ、彼にとってこれは願ってもない話だった。
クラウディアとヴィッキーの浪費によって、テニエス伯爵家の財政は年々悪化していた。入ってくる金よりも、出ていく金のほうが多い状態が長く続いていたのである。
そんな折、アルディオン辺境伯家が妻となる令嬢を探しており、嫁がせた家には多額の支度金が支払われるという話が舞い込んできた。テニエス伯爵は、クリスティアーナを厄介払いできるこれ以上ない機会だと思った。
大切なヴィッキーを危険だと噂される男に嫁がせるつもりはない。だが、すでに娘として扱っていないクリスティアーナなら話は別なのだ。条件は貴族の娘というだけ。魔紋があることが条件には入っていないので、とても都合がよかった。
アルディオン辺境伯は、王国北部の広大な領地を治める若き当主である。並外れた魔力の持ち主として知られており、その領地は魔物の森に面していた。また、魔力があまりにも強すぎるため、ひとたび制御を失えば周囲を巻き込むほどの暴走を起こすとも言われている。当然、そんな男のもとへ娘を嫁がせようとする貴族たちはいない。だから多額の支度金が支払われるのだ。
「お父様。それはどなたですか?」
「アルディオン辺境伯だ。お前が嫁げば、多額の支度金が我が家に入ってくる」
テニエス伯爵は満面の笑みでそう言った。
「支度金?」
「ふふふ。お前のような何の価値もない娘でも、金に換えられる日が来るとは思わなかった。今日まで、この家で食わせてやったんだ。それくらいは返してもらわなければ、わりに合わん」
ヴィッキーは楽しそうに笑う。
「辺境伯もお気の毒ね。こんなに痩せて、魔法も使えない女を妻にしなきゃいけないなんて」
「ヴィッキーったら、言い過ぎよ。まあ、その通りだけども」
そう言いながら、クラウディアも笑った。
「でも、辺境伯は魔力を暴走させることがあるのでしょう? もしお姉様が巻き込まれて死んでしまったら、支度金はどうなるの?」
「金なら返す必要はないさ。あちらに嫁いでしまえば、あとはどうなろうと返金不要と聞いている。なんの心配もないさ」
テニエス伯爵は即答した。
「あら。それなら安心ね。こんな者でも役立つ日が来るなんて、初めて生きてくれていて嬉しいと思ったわ」
クラウディアが言い、三人が笑った。
彼らにとっては、クリスティアーナの幸せなど、どうでもいいのだ。
テニエス伯爵が欲しいのは金だけだ。
クラウディアが守りたいのは今の贅沢な暮らし。
ヴィッキーは、自分が危険な男のもとへ嫁がずに済んだことを喜んだ。
そうして一年、二年と月日は過ぎていった。
やがて十八歳となったクリスティアーナには、伯爵令嬢だった頃の面影はまったくなかった。髪も肌もすっかり艶をなくし、ガリガリに痩せ細ってしまったのだ。
そんなある日、クリスティアーナは突然、テニエス伯爵の執務室へ呼び出される。
そこにはテニエス伯爵だけでなく、クラウディアとヴィッキーも揃っていた。
「クリスティアーナ。お前に縁談が決まった」
「……縁談?」
思いもしなかった言葉に、クリスティアーナは驚いた。
「喜べ。お前もようやく、この家の役に立てる機会ができたんだ」
テニエス伯爵は、ほくほく顔だ。実のところ、彼にとってこれは願ってもない話だった。
クラウディアとヴィッキーの浪費によって、テニエス伯爵家の財政は年々悪化していた。入ってくる金よりも、出ていく金のほうが多い状態が長く続いていたのである。
そんな折、アルディオン辺境伯家が妻となる令嬢を探しており、嫁がせた家には多額の支度金が支払われるという話が舞い込んできた。テニエス伯爵は、クリスティアーナを厄介払いできるこれ以上ない機会だと思った。
大切なヴィッキーを危険だと噂される男に嫁がせるつもりはない。だが、すでに娘として扱っていないクリスティアーナなら話は別なのだ。条件は貴族の娘というだけ。魔紋があることが条件には入っていないので、とても都合がよかった。
アルディオン辺境伯は、王国北部の広大な領地を治める若き当主である。並外れた魔力の持ち主として知られており、その領地は魔物の森に面していた。また、魔力があまりにも強すぎるため、ひとたび制御を失えば周囲を巻き込むほどの暴走を起こすとも言われている。当然、そんな男のもとへ娘を嫁がせようとする貴族たちはいない。だから多額の支度金が支払われるのだ。
「お父様。それはどなたですか?」
「アルディオン辺境伯だ。お前が嫁げば、多額の支度金が我が家に入ってくる」
テニエス伯爵は満面の笑みでそう言った。
「支度金?」
「ふふふ。お前のような何の価値もない娘でも、金に換えられる日が来るとは思わなかった。今日まで、この家で食わせてやったんだ。それくらいは返してもらわなければ、わりに合わん」
ヴィッキーは楽しそうに笑う。
「辺境伯もお気の毒ね。こんなに痩せて、魔法も使えない女を妻にしなきゃいけないなんて」
「ヴィッキーったら、言い過ぎよ。まあ、その通りだけども」
そう言いながら、クラウディアも笑った。
「でも、辺境伯は魔力を暴走させることがあるのでしょう? もしお姉様が巻き込まれて死んでしまったら、支度金はどうなるの?」
「金なら返す必要はないさ。あちらに嫁いでしまえば、あとはどうなろうと返金不要と聞いている。なんの心配もないさ」
テニエス伯爵は即答した。
「あら。それなら安心ね。こんな者でも役立つ日が来るなんて、初めて生きてくれていて嬉しいと思ったわ」
クラウディアが言い、三人が笑った。
彼らにとっては、クリスティアーナの幸せなど、どうでもいいのだ。
テニエス伯爵が欲しいのは金だけだ。
クラウディアが守りたいのは今の贅沢な暮らし。
ヴィッキーは、自分が危険な男のもとへ嫁がずに済んだことを喜んだ。