最弱探偵

【12 一時的な記憶喪失により(7)】

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・【12 一時的な記憶喪失により(7)】
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 校長先生がゆっくりと口を開いたわけだけども、それよりも先に虎太郎お兄ちゃんが声を出した。
「でも罰する必要はありません。このままできっと上手くいきます」
 校長先生は少し怪訝な顔をしてから、
「いや、坂本くんと石谷くんは最低二週間の停学、場合によっては退学にしなければなりません。なんせ記憶喪失にさせるくらいの加害を加えたわけですから」
「いいえ。そもそも人間はそんな都合良く記憶喪失にはなりません」
 僕も校長先生もハッした表情をした。
 虎太郎お兄ちゃんは続ける。
「あの口ぶり、村井さんは一時的に気絶しただけで、記憶喪失にはなっていない可能性が高いです」
 校長先生は背もたれに背中をつけて、少し天を仰いだ。
 虎太郎お兄ちゃんはそのまま喋る。
「つまり、自分が格下だと思っているヤツにやられたことを公にするほうが、余程村井さんにとっては痛いことなんでしょう。で、現在、村井さんの傍若無人さは抑えられていると聞いています。この場合、何もしないほうが得だと思います」
 校長先生は深く呼吸をついた。
 僕は内心震えていた。まさかこんな解決の仕方があるなんて。やっぱり虎太郎お兄ちゃんの頭脳は生半可じゃない。
 校長先生は一息ついてから、
「では、どうやって気絶させたかは、分かりますか?」
 虎太郎お兄ちゃんはゆっくり口を開き、
「道の駅って、生産者の名前が書いていますよね。バターピーナッツもカボチャも、坂本さんというお方が納品していました。もしかすると坂本さんの家はカボチャ農家なんじゃないんですか?」
「多分、そうです」
「まず村井さんがパソコン室へいつも通り行き、どういういきさつかは分かりませんが、坂本さんが実家のカボチャを持ってきたということで調理室で調理をすることにしたんでしょう」
 校長先生は「はい」と相槌を打った。虎太郎お兄ちゃんは続ける。
「村井さんは調理が好きみたいなので。そこで多分坂本さんも石谷さんもカボチャを切れないフリみたいなことをして、村井さんにカボチャを切らすように仕向けて。でもカボチャって慣れていないと本当に切りづらくて、当然村井さんもカボチャ切りに集中し、その隙にバターピーナッツで殴って気絶させたんでしょう。バターピーナッツは鈍器として使いやすい形状なので」
 校長先生は「おぉ」と感嘆の息を漏らした。なるほど、フライパンが綺麗なのに、片付ける場所が違うのは、フライパンを最後に使ったのが坂本さんと石谷さんだから綺麗にして戻し、でもどこにあったかは覚えていなかった、または、フライパンを取り出したのは村井さんだから、どこに片付ければいいか分からなかったというわけか。
 虎太郎お兄ちゃんは一呼吸置いてから、
「犯行に使った食材は料理して証拠隠滅。気絶した村井さんはブルーシートなどで囲み、台車に乗せて歩道に置いたんでしょう。パソコン室から百キロ弱ある村井さんを運び出すことは二人いても多分不可能ですが、一階の調理室からなら可能だと思われます。菜園と繋がっていて簡単にすぐ外へ出られますし」
 校長先生は深く呼吸をしてから、
「なるほど。そういうことの、可能性が一番高そうです、ねぇ……」
 さて、校長先生がこれからどういう決断をするのか、と思ったその時だった。
 校長室のドアがノックと同時に開いて、そこには王茶先生と村井さんが立っていた。
 王茶先生がドアを閉めると、即座に村井さんが頭を深く下げながら、
「全部全部! 俺が未熟でした! とにかく全部俺が悪かったんです! だから! その! まあ記憶喪失は記憶喪失なんですが! とにかく全部俺が悪かったんで! お願いします! 俺が自分で全部取り返します! 心入れ替えました! 王茶真央選手、いや! 王茶先生の門下に入ったからにはもう悪事はしません! だから! どうか! お願いします!」
 そう言いながら、土下座の体勢になっていったので、校長先生は慌てて、
「顔を上げなさい! 立ちなさい! 記憶喪失ということはちゃんと分かりましたんで!」
 村井さんは膝立ちから、またちゃんと姿勢になり、
「本当に申し訳御座いませんでした! 自分のチカラは正しいことだけに使いますので許してください!」
 その後、その場にいた五人で解決とした。
 王茶先生は校長先生から謝礼を封筒で頂いた。帰りの車で王茶先生がこう言った。
「おうちゃまのこと信じてお金はおうちゃまに託してね。あの両親じゃ最悪使っちゃうでしょっ」
 完全に僕と虎太郎お兄ちゃんの両親ディスだったけども、本当にそんな気もするので、王茶先生に管理してもらうことにした。
 というか、
「王茶先生門下に入るとか言ってましたけども」
 王茶先生は得意げな声で、
「迷える子羊を救うために教師をしているわけなのよー」
 と言って、僕は王茶先生のことを幼いと内心思っていたことを少し反省した。
 その時だった。王茶先生がこう言った。
「でも校長室って茶菓子が無いのねー、水ようかんくらい置いておきなさいよー」
 前言撤回。やっぱり幼いかもしれない。
 こんな感じで僕と虎太郎お兄ちゃんと王茶先生の最初の事件は幕を閉じたのであった。
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