幸せの苦痛

3話「体育祭の空」

体育祭の日。
グラウンドには、いつもより大きな声が響いていた。
クラスの仲間たちは、競技の順番を確認したり、応援の準備をしたりしていた。
僕も、選抜リレーのメンバーとして参加することになっていた。
走ることに特別な自信があったわけではない。
それでも、選ばれたからには頑張りたかった。
スタートの合図が鳴る。
前の走者からバトンを受け取って、僕は走り出した。
周りの声が聞こえる。
名前を呼ぶ声。
応援する声。
自分の足音。
その瞬間だけは、余計なことを考えずにいられた。
ただ、前へ進むことだけを考えた。
結果は三位。
一番ではなかった。
けれど、ゴールしたとき、悔しさよりも達成感のほうが大きかった。
「お疲れ!」
仲間が声をかけてくれた。
「いやあ、疲れた!」
そう言って笑う。
空を見上げると、青空が広がっていた。
その景色が、妙にきれいに見えた。
学校へ行けなかった時期には、こんな日がまた来るなんて想像できなかった。
友達と一緒に走って、笑って、同じ結果を喜んだり悔しがったりする。
そんな普通のことが、こんなにも嬉しい。
僕はその日、心からそう思った。
人生には、忘れたくない瞬間がある。
写真に残っていなくても、何年経っても思い出せる景色がある。
僕にとって、体育祭の空は、そんな景色の一つになった。
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