幸せの苦痛

3話「恋人で居なくなっても」

別れてから、しばらく時間が経った。
すぐに以前のような関係に戻れたわけではなかった。
お互いに気まずさがあっただろうし、何を話せばいいのか分からないこともあったと思う。
それでも、時間が経つにつれて、僕たちは少しずつ話せるようになっていった。
メッセージを送る。
返事が来る。
ゲームの話をする。
何気ない会話で笑う。
恋人だった頃とは違うけれど、完全に他人になったわけでもなかった。
そのことが、僕には不思議だった。
一度は大切な恋人だった相手と、別れたあとも繋がっていられる。
それは、当たり前のことではないのかもしれない。
もちろん、以前と同じではない。
もう、恋人として手を繋ぐことはない。
何かあれば必ず自分を優先してくれるわけでもない。
お互いの生活には、それぞれ別の時間が流れている。
それでも、友達として話せることが嬉しかった。
美桜が笑っていると、僕も少し安心した。
彼女が彼女らしく過ごしていることを、素直に喜べる瞬間もあった。
恋人ではなくなっても、過ごした時間まで消えるわけではない。
彼女に優しくしてもらったこと。
一緒に出かけたこと。
何でもないことで笑い合ったこと。
その全部が、僕の中には残っていた。
僕たちは、恋人としての時間を終えた。
けれど、あの時間が間違いだったとは思わなかった。
あの頃の僕は、確かに幸せだったのだから。
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