歳をとっただけの俺に愛が産まれた七日間

Day One ep.1

「また、会う前にお断りか……」

俺は肩を落として結婚相談所を後にした

これでもう何度目だろう、婚活を始めてからもう五年経つ

一度も俺から断ったことなどない

俺の経歴を相手に伝えると即座に断られるのだ

俺の名前はハロルド、歳は四十五

もう若くないのもあるが、婚活がうまくいかない一番の理由は

過去に軍で魔導士として働いていたからだ

この国では軍は毛虫のように嫌われている

特にその魔導士となると、汚物のごとく嫌悪されている

だから俺には結婚相手が見つからない

ぐう~

ふいにお腹が鳴った、そういえば今日はまだ何も食べていない

俺は途中、行きつけの定食屋に立ち寄った

「ハロ~、いらっしゃい~」

元気な声が出迎えてくれた

「リサちゃん、こんにちは。 いつものお願い」

「は~い、魚定食ね。 今日はアジの開きだよ~」

「お、いいね」

「お父さん、魚一つ!」

「おうよ」

この定食屋にはよく来ている

俺と同い歳のブルーノと、十二歳の娘のリサちゃんが二人で切り盛りしている店だ

味が良くて手頃、それにリサちゃんは愛想が良くて評判がいい

ブルーノとは長い付き合いで、家族ぐるみで親しくしてくれていた

リサちゃんのことは生まれた時から知っている

小さかった頃はよく抱いて歩いたし、俺の店で預かったこともある

俺にとっては娘のような子だ

寂しい独身中年の俺にとって、この定食屋は癒しの場だった

すると厨房からブルーノが声を掛けてきた

「ハロルド、その顔はまた振られたな?」

「なんでそう思うんだ」

「その顔を見るの何度目だと思ってんだよ」

「余計なお世話だ。 ブルーノだって嫁さんに逃げられたくせに」

「一時的な話さ。それに俺には娘がいるからな、ハロルドよりはましだよ。 家族が欲しいだけなら、いっそ養子でももらったらどうだ? 元軍魔導士と結婚する女なんか、いくら探してもこの町にはいねえよ」

「やっぱり……そうだよな……」

それは分かっているのだ、でも俺は家族に憧れていた

奥さんを見つけて、子供がいて、一緒に食事をして楽しく暮らす

そんなささやかな生活を、いつかは自分もしてみたいと思っていた

なかなか踏み出せずにいた俺に婚活を始めるきっかけをくれたのは、当時七歳だったリサちゃんだ

『ハロもお嫁さんを探しなよ。 一人でご飯を食べるより、皆で食べる方がおいしいよ』

ブルーノの家で夕食をごちそうになった時にそう言われた

あの頃のリサちゃんは素直で可愛い、本物の天使だった

俺のことを心配して言ってくれたのに、断るのも気が引けて、返事ができずにいると

ブルーノも奥さんのクララも強く勧めてくれた

そして紹介されたのが、あの結婚相談所だった

早いものであれから五年、現実はそううまくはいかないらしい

リサちゃんがお盆に料理を載せて店の奥から出てきた

「はい! 魚定食! 元気出してねー。 すぐにハロのいいところが分かってくれる人が現れるから」

「あ、ありがとう」

「私が何年ハロを応援してると思ってるの、そろそろいい報告が聞きたいわ~」

「それは……俺もそう思ってるよ」

「もっと頑張りなさい、ハロに足りないのは行動力よ」

「リサちゃん……俺は君のお父さんと同い歳なんだから、もう少し遠慮してくれないかい? いたたまれない気持ちになるんだ」

「え~、私たち友達じゃ~ん、何が悪いの?」

「俺が四十五歳って分かってる?」

「友情に年齢は関係ないでしょ~」

昔はハロハロ言って俺の後ろをついて歩いていたのに、いつの間にこんなに偉そうになったんだろう

他人は懐かれていると言うが、リサちゃんは俺をなめているだけだ

もっとも、ブルーノにも同じような口をきく

二人目の父親のように思ってくれているのかもしれない

「それじゃ、いただきます」

リサちゃんが自分の飲み物を持って俺の横に座った

俺はスープを一口飲んでリサちゃんを横目で見る

「仕事しないの?」

リサちゃんが首をくいっと動かして店を見回す

「ハロしかお客さんいないんだもん、やることなんかないよ」

「今日はお客さん少ないね」

「西広場にサーカスが来てるのよ。 だから皆そっちに行ってる。 おかげで暇なの~」

俺は魚を一口食べてパンを口に入れる

「うん、おいしいね」

「でしょ~、その魚、私が焼いたんだからね。 寂しいハロに気を使ってあげたんだから、感謝してね~」

「それは……ありがとう」

余計なお世話だ……内心そう思った

「ところでハロ、これ、充電してよ」

リサちゃんが机に置いたのは魔道ライターだった

魔力で小さな火を起こす道具だ

「うん、いいよ」

俺が魔道ライターに手をかざすと、手が青白く光った

その光がライターに吸い込まれていく

こうして魔道具に魔力を充電するんだ

俺は小さな魔道屋を営んでいる

主な仕事は魔力の充電、魔道具の修理や販売もやってる

軍を退役してから始めた商売で、今はそれなりに顧客もついて繁盛している

家族を養うくらいの収入は十分にあった

それなら結婚相手も見つかるだろうと甘く考えていたが、今のところ婚活にはあまり効果がない

「はい、終わったよ」

「ありがとう~」

リサは早速ライターの火をつけた

「まだしばらくは大丈夫だけど、発火石が摩耗してきているみたいだ。 火の付きが悪くなったら店に持っておいで、交換してあげる」

「ひょっとして、私からもお金とる?」

「リサちゃんからは取れないよ」

「サンキュ~、持つべきパパはハロね~」

「都合のいい時だけパパにするんじゃないよ」

「え~、いつもパパみたいなものだと思ってるよ~。 私はハロには甘えてもいいの」

そう言われると悪い気はしないが、なんとも調子のいい

リサちゃんは笑いながらライターをしまった

「それよりさ~、聞いてよ~」

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