歳をとっただけの俺に愛が産まれた七日間

Day One ep.2

俺は小さな友人から、男友達の話を聞かされながら魚定食を食べる

どうやらリサちゃんの男友達は、困っている女の子を助けたことをきっかけに、その子とお付き合いし始めたらしい

「だからさ、ハロも女の人を助けて、奥さんにしちゃえばいいんだよ」

「助けるって……何から?」

「え? 悪漢とか?」

「この町でそんな場面を見たことがないよ。 泥棒だって年に数件あるかないかじゃないか。 それに俺は喧嘩が弱いから返り討ちに遭うだけだ」

「魔導士なんだから魔法でやっつければいいじゃん」

「残念でした。 俺の攻撃魔法はネズミ一匹殺せないよ」

「え~、そうなの~?」

俺が暮らす町は小さいが、とても平和な町で、ご近所付き合いも盛んだ

信心深い人が多く、日曜日には殆どの住人が教会のミサに参加している

外から入ってくる人間は少なく、いい意味で安定している町だった

だから軍出身の俺は浮いているが、このような地方の小さな町で魔導士は貴重だった

役に立つから、どうにか俺は受け入れてもらえているのだ

「それじゃあさ」

リサちゃんの話はまだ続いている、話しながらお茶を入れて差し出してくれた

俺は魚定食を食べ終えて、そのお茶をゆっくりと飲んだ

「貧乏な人を見つけて、お金の力で助けちゃえば? ほら、教会の保護施設に沢山いるでしょ?」

「な、なんだい……それは、中年のおじさんが一番やっちゃいけない行動なんじゃないのか?」

「なんでよ、別にいいじゃん。 相手だって助かるんだから」

「最初から相手の弱みにつけ込んで奥さんにしようなんて、俺はそういうの嫌だよ」

「選り好みなんかできないでしょ? このままじゃハロがおじいちゃんになっちゃうじゃない」

「あのね、リサちゃん、そういう出会いを僕は否定するわけじゃないけど、仮に助けるなら、その人が自分の力で生きていけるようにしてあげたいんだ。そうでないと、その人の人生を僕が奪ったように感じるんだよ」

「え? 意味分からない」

「そんなやり方だと、助けられた人は他の選択肢がないだろ。 僕のことを好いてくれたとしても、それは少し違うと思うんだ」

この一言で、俺はリサちゃんの何かのスイッチを押してしまったらしい

「うわぁ……そんなんだから結婚できないんだよ。 そんな変な誠実さより、目先の生活よ。 甲斐性があって浮気しない男なら、きっかけなんかどうでもいいじゃん。 女に夢でも見てんじゃないの? ハロはモテないけど、お金があって優しいし、浮気できなそうだし、顔だって悪くないし、いつも小綺麗にしてるんだから。 このさい不幸な女の一人くらい助けなさいよ。 この甲斐性なし!」

「リ、リサちゃん……まだ十二歳だよね。 おじさんの心にグサグサくることを言わないでおくれ」

「グサグサしないと、ずっとこのままじゃん」

するとブルーノが助け船を出した

「もうその辺にしといてやれよ。 男には色々あんだよ」

リサちゃんが父親をにらみつける、今度はブルーノが何かのスイッチを押した

「お父さんが浮気したせいで、お母さん出ていったんでしょ!? 色々とか言わないでよ、むかつくから!」

「だから未遂なんだって。 お母さんも近所にいるし、リサは毎日会ってるだろ」

「その気満々だったくせに! 私が発見したから未遂で終わっただけでしょ! しかもお母さんの友達に言い寄るとか、頭おかしいんじゃないの!?」

「あれはあっちから……」

「あっちもこっちもないから!」

ブルーノが肩を落として黙った

リサの両親はおしどり夫婦なんて言われていたが、今は少々事情がある

リサちゃんは少し考えてから、俺を指さした

「ハロがお母さんと結婚すればいいんじゃん。 お母さんならハロを嫌がらないし、私も一緒についていく」

「ええええ!?」
「ええええ!?」

俺とブルーノの声が重なった

「ちょっと待て! 俺はまだ離婚してないぞ!」

「だったら、ちゃんと反省してよ。 私までお父さんの敵になってもいいわけ」

「す、すみません……」

俺は慌てて二人の間へ口を挟んだ

「リサちゃん、その辺にしてあげて。 ブルーノも反省しているだろうし」

するとリサちゃんが、俺へ顔を寄せて小声で囁いてきた

「分かってるって。 お母さんから、お灸をすえといてって頼まれてるの」

「あ……そういうこと」

「ハロも話を合わせといてよ」

俺は小さく頷いた

それからブルーノは、見ていていたたまれなくなるほどリサちゃんに詰められていた

まぁ、自業自得なのだから仕方がない

お茶を飲み終えて立ち上がると、ブルーノが俺の肩へ手を置いた

「本当に未遂なんだ。 俺の家族を……取らないでくれ」

俺もその肩へ手を置き返す

「大丈夫だ。 クララに誠心誠意謝ってこい。 言い訳はしない方がいいぞ」

ブルーノは深く頷いた

俺は代金を払い、二人に見送られて店を出た

外はもう薄暗くなっている、寒さが身に染みる時期になってきた

しばらく歩いていると、ぱらぱらと雪が降り始める

「初雪か……」

そう呟いて俺は帰路を急いだ

俺の店兼自宅は町の北外れにある

町はさほど高くない壁に囲まれていて

その北門から入ってすぐの場所に俺の店はある

目の前に大きな貯水池があって、そのせいで湿気や虫が多い

暮らしやすい場所とは言えないが、その場所に店を構えた理由は簡単

家賃が安く、人通りが多かったからだ

町の北側には集合住宅が並んでいて、沢山の人たちが暮らしている

単価が高い仕事こそ少ないが

魔道屋としての仕事はいくらでもあったし重宝されていた

しばらく歩くと、ようやく店が見えてきた

俺はポケットから鍵を取り出す

そこで気がついた

貯水池のほとりに人影がある

池には柵がなく、岸の地面もぬかるんでいて危ない

だから普段から近づく者はいない

まして今は、ずいぶん暗くなって雪まで降っている

冷え込んできていて水も冷たいはずだ

足を滑らせて池に落ちれば、自力で這い上がるのは難しいだろう

声を掛けて危険だと教えてやった方がいいな

俺はそう思って、その人影に向かって歩き出した

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