色褪せて、着色して。Ⅸ~クレマチス編~

悪魔の提案

 私は生まれたときから、不幸だと思っていた。

 急にどうした? と思われるかもしれないけど聞いてほしい。
 私は隣国スカジオン王国で生まれた。
 家は元男爵家…つまりは元貴族。
 昔は貴族がいたのだが、貴族制度が廃止されてから生まれた私。
 私は両親のどちらにも似ていなかった。
 それが原因でよく父と母は喧嘩していた。

 玉の輿を狙って、ヒューゴという男と婚約したのも束の間。
 浮気され、悪役令嬢というレッテルを貼られ。
 警察に捕まるところを、幼なじみのテイリーに助けられた。

 …思い返すだけでも、ヘビーだな。私の人生って。

 そこからは、あまりにも怒涛の展開なので省略するけど。
 決して順風にいったわけじゃないとだけ伝えておく。

「本気で弾いてる?」
 ポポが我が家に襲撃(?)した翌日の夜。
 ピアノの師であるヒサメ先生から電話があって。
 急遽、レッスンが行われた。
 秘密の館で暮らすヒサメ先生はピアニストであり、私の先生でもある。

 ヒサメ先生は自分の姿を見られることを嫌うので。
 ロビーは最低限の照明しか用意されていない。
 つまり、楽譜を読むことは許されるわけもなく。
 暗譜した状態でピアノを弾くしかない。

 弾き終えた後のストレートなヒサメ先生の言葉にげんなりする。
 一切の妥協はなく。
 ヒサメ先生は一言で片付ける。
「もう、時間がないんだよね」
「どういう意味です?」
 暗いのでヒサメ先生がどこにいるのかわからず。
 とりあえず、声のするほうへ身体を向ける。
 暗闇からにょきっと人の姿が確認できたかと思うと。
 照明の近くにヒサメ先生が立った。

「一週間後に、他国の王族を招いたパーティーが行われる。そこで君にピアノを弾いてもらう」
「…は?」
 ヒサメ先生が私の前に立った。
 40代のはずだが、どうみても年下にしか見えないヒサメ先生は。
 冷たい目で私を見ている。
「明日からここに泊まり込みで一週間、練習して」
「…は?」
 ヒサメ先生は腕を組んだ。
「本気出さないと間に合わないから」
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