色褪せて、着色して。Ⅸ~クレマチス編~
 勝手に話が進んでいることに、無償に腹が立つ。
「泊まり込みじゃなくても、家から通えます」
「家から通っても、この程度でしょう? ピアノと向き合うにはもう、これしかない。さっ、帰って準備して」
「ちょっと待ってください」
 勢いよく立ち上がる。
「なんで勝手に決めるんです? というか、私がこの館に泊まるのは駄目なんじゃ?」
「泊まるっていっても、決められた場所だけだから大丈夫」
「お子様はまだ小さいですし、ピアノの音がうるさいんじゃ?」
「それは言い訳だ」
 ぴしゃりとヒサメ先生が言い切った。

 本当に嫌い。
 なんだこの若作りジジイ。

 帰りの馬車でイライラしていたが。
 バニラは「まあ、では準備しませんと」と明るく言っている。

「あのね、特訓中はバニラや護衛達も近寄るのは禁止だって」
「まあ。それは大変ですわね」
「なんで勝手に決めるかね。あの若作りジジイ」
 悪口を言っても、バニラはニコニコしているだけだった。
「なんでも、バニラ達はパーティーの手伝いのほうにまわってほしいんだってさー」
 やれやれと言ってバニラを見ると。
 本当に一瞬。
 見落としそうになるくらい一瞬だけバニラが真顔になった。
「え、バニラ?」
 すぐにバニラは侍女スマイルに戻ったが。
 彼女が真顔になったのには、何か意味があるのだろうか。
 たらりと額に汗が噴き出してくるのを感じた。

 今更になって私は気づいた。
「ごめん、バニラ。私、ちゃんとピアノの合宿頑張るから。休んでね。パーティーの手伝いなんて、どうだっていいからさ」
 バニラは私の侍女になってから、ほとんど休んでいない。
 脳裏にヒサメ先生がほくそ笑んでいる光景が浮かんだ。
 私が合宿で缶詰状態にでもならなければ、侍女や護衛が休めないと思っての判断だった…のかもしれない。
 そうだということに今気づいたとしたら。
 私は本当に愚かな人間だということだ。
「一週間、頑張るわ!」
 バニラは黙っているだけだった。
< 9 / 9 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

名探偵は活躍しない

総文字数/47,833

その他77ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【逢坂まりあ】 主人公。高校2年生。 逢坂財閥の娘。 超お金持ちのお嬢様。 並ならぬ記憶力の持ち主。 父の言うことは絶対だと思い込んでいる。 【逢坂次郎太】 まりあの養父。 現当主の弟。 美しいものが大好き。 【逢坂桜子】 まりあのいとこ。高校2年生。 逢坂財閥、当主の娘。 超お金持ちのお嬢様。 自由奔放で、 まりあに言わせると。 余計な一言が多い。
色褪せて、着色して。Ⅷ~スノードロップ編~

総文字数/21,717

ファンタジー34ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
スノードロップの花言葉を知っていますか? 一つは、希望。 一つは・・・・・・。 【マヒル】 主人公。 金髪碧眼、自他ともに認める美人。 ピアニスト。 【太陽】 マヒルの夫。 国家騎士であり、国王の側近。 仕事が多忙すぎて常に家には居なかったが…? 【スズメ】 マヒルの護衛。 根っからの真面目。 【トペニ】 マヒルの護衛。 元罪人。 チャラいのと、あえて空気を読まない男。 【オーロラ姫】 ???
色褪せて、着色して。Ⅶ~カンパニュラ編~

総文字数/31,542

ファンタジー51ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【マヒル】 この物語の主人公。 スカジオン王国出身。 金髪碧眼で絶世の美女。 王家近くの領地で暮らしている。 ピアニスト。 【太陽】 マヒルの夫。 国家騎士で国王の右腕。 仕事が多忙のため、 ほとんどマヒルの前に姿を 現さなかった…が…? 【バニラ】 マヒルの侍女。 桃色の髪に真っ赤な眼をしている。 実は妖精で、何でも出来る。 【トペニ】 マヒルの護衛。 チャラくてイケメン。 【スズメ】 マヒルの護衛。 堅物で非常に真面目。 【ジョイ】 国家騎士。出世して、 あまりマヒルの前に現れなかった。 いつも陽キャ全開。 【マリア】 国家騎士。出世して、 あまりマヒルの前に現れなかった。 ジョイとは違って、落ち着いている。 【オーロラ姫】 ???

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop