初恋メビウス~先に好きになったのは私です~
 何かつぶやいた声が聞こえず戸惑うと、ふいにエヴェリーが立ち上がりリアラのそばに跪くのでギョッとする。

「え、エヴェリー様?」
「ランだ」
「え?」

 たしかに彼の名前はケイラン・ソーン・エヴェリーで、副団長だけは彼をランと呼んでいる。リアラにもそう呼べと言ってるのだろうかと戸惑ったのは、リアラにとってのランは一人だけだからだ。

 しかし、リアラの顔を覗き込むエヴェリーの顔があまりにも真剣で、なにがなんだか分からないまでも、彼の希望を叶えたい気持ちが沸き上がる。リアラは胸の痛みをこらえながら、「ラン様?」と囁いた。

 なぜ今なのかわからない。
 何も知らなかったら、自分が求婚されるものだと思い込んだだろう。

 村娘の時とは違い、異性と二人きりにはなれないから、侍女も副団長もそばにいる。にもかかわらず、急に世界に二人だけになったような気持ちになって、リアラの目に涙が浮かんだ。

 揶揄(からか)われているのだと思った。
 これは、気持ちを打ち明けた罰だろうか。
 それとも不思議な経験をしたリアラの気持ちを楽にするための冗談なのだろうか。

 こちらを見上げる美しい騎士の姿。それは夢にまで見た光景だが、正直なところ残酷だと思った。

 それでもありったけの矜持をかき集めて零れかけた涙を止めると、エヴェリーがリアラの手を取り薬指にそっと口づけるので心臓が止まりそうになる。

 そこは求婚者のみが口づける場所だ!
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