冷徹社長はトラウマ秘書を愛で包む
2.初デート
 *

 正直、紀沙には油断があった。

 ガラの参加者とはいえ、しょせんは秘書。そこまでの格式は求められないに違いない。

 秘書業務の中で高級アパレル店に出入りする機会は何度かあり、価格帯は把握している。せいぜい十万円程度だろう、とたかをくくっていた。

 だから。

「お、オーダーメイド!?」

 次の日曜日、御堂に案内されたのは、閑静な高級住宅街にひっそりたたずむアトリエ。

 明治時代に建てられたというレトロな店内の席に座り、紀沙は絶句していた。

「当然だろう。一番似合うドレスを用意すると言った」

 隣に座った御堂が常識を説くように頷く。グレーのジャケットに黒シャツをあわせた装いは、ごまかしのきかないシンプルさゆえに彼の端正さを際立たせており、なんでもない発言にも説得力を添えている。

 机を挟んで対面に座ったアトリエの店主は品のよい五十代ほどの女性で、愕然としている紀沙に温かく微笑みかけた。

「どんなご要望にもお応えしますよ。お好みのデザインがあれば遠慮なくお申し付けください」
「ちょ、ちょっと待ってください」

 目眩に襲われてこめかみに片手を当てた。信じられない。ツッコミどころが多すぎる。紀沙はまだ、御堂と休日に外出しているという事実さえ上手く噛み砕けていないのに。

 思考を放棄して頷きかける頭を制し、御堂と店主を見比べて、絶対的に話の通じそうな店主に訊ねた。

「ええと、そもそも間に合うんですか。ガラは二週間後なんですけれど……」
「……なんとか」
「む、無理しないでください!」

 店主の微笑の裏によぎった多忙の気配を嗅ぎ取り、紀沙はぶんぶんと首を振る。隣で平然としている御堂に、ずいっと身を寄せて言い募った。

「お金に物を言わせて無茶を強いるのはよくないですよ! 既存のドレスを買えばいいじゃないですか」

 御堂の柳眉が不機嫌そうに寄せられる。

「だめだ。俺は綺麗に着飾った楠を見たい。そもそもドレスを見立てるのは俺だ。楠に決定権はない」
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