冷徹社長はトラウマ秘書を愛で包む
「どうかされましたか?」

 無駄を嫌う御堂が予定以外のことに興味を示すのは珍しい。仕事ぶりに何か問題があったかと冷や汗をかいていると、御堂は告げた。

「体調が優れないのか?」
「えっ?」

 唐突に投げられた指摘に、紀沙の肩がびくりと跳ねる。脳裏には今朝見たニュースがちらついた。思い出したくなんかないのに。手のひらにまで冷や汗を滲ませ、タブレットを取り落としそうになる紀沙をよそに、御堂が端的に続ける。

「顔色が悪い」
「そんなことありませんよ。お気遣いいただきありがとうございます」

 顔は化粧で完璧に装ったはずだ。バレるはずがない。愛想のよい秘書の笑顔を繕い、紀沙は話題を仕事に戻した。

「それより、来月に参加されるチャリティーガラの件ですが、秘書にも招待状が届きまして……」
「具合が悪いなら今日は休め。無理をするな」

 御堂は組んだ手に顎を乗せ、なぜか頑固に食い下がってくる。秘書の体調なんてどうでもよいのにこれでは話が進まない。時間を使われるべきは自分ではなく、御堂のような選ばれた人間だ。まっすぐ注がれる射貫くような視線が居心地悪くて、紀沙は笑顔のまま、ほんの少しだけ虚実織り交ぜた内実を明かすことにした。

「本当に平気です。……実は、推しの俳優に熱愛報道が出てしまって。落ちこんでいるだけですよ」

 推しなんかではない。あの人は、あの男は。

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