冷徹社長はトラウマ秘書を愛で包む
 御堂はたった今プロポーズをしたとも思えない無表情で、腕を組んで椅子にもたれた。

「なるほどな」
「あ、もしかしなくてもご冗談でしたか。すみません、私が暗かったから笑わせようとしてくださったんですね。確かに熱愛報道なんてどうでもよくなりました」

 ジョークの方向性が尖りすぎだが、海千山千の秘書室の先輩たちを泣かせた御堂だ。適切なコミュニケーションなんて最初から期待してはいけない。

 しかし御堂は内奥の読めない凪いだ面差しのまま、視線を机に落とした。

「いや、本気だ。俺は今、普通にフラれてショックを受けている」
「いくら社長がお金持ちで美形とはいえ、今のは誰でも断ると思います」

 上司に、というか担当役員に言うべきではないが、人間として伝えるべきだと思ったので言葉にした。秘書としての微笑も保っていられない。タブレットのケースをぱたんと閉じて顔つきを引きしめる。

 御堂は少し首を傾け、まだ夢みたいなことを低く呟いていた。

「俺は、楠が頷いてくれるなら、今日にでも婚姻届を出して構わないんだが」
「御堂社長」

 ぴしりと人差し指を立てた紀沙に、御堂は素直に面を上げる。四つ年下の平凡な女にふさわしいとも思えない、真摯さの滲む面差しだった。

「人生は、もっと真面目に考えた方がいいです」

 朝日に照らされているのは秀麗なかんばせ。

 その眩しさに目を細めながら、紀沙は内心頭を抱えていた。

(どうしてまたこんな顔のいい男と厄介な付き合いができるの!? 私はもう、絶対にそういう人とは関わらないって決めたのに!)

 目眩を起こしそうな眼裏に、四年前、大学卒業直前の思い出が浮かび上がってきた。
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