幼すぎた君との別れから
12話
伯爵の棺が、黒い大きな羽根のついた馬車に乗せられた。
屋敷の前に集まった、各地から来たフォーチェスター伯爵家の親族。
いくつも用意された馬車に、彼らも次々と乗り込んでいく。
シーリアもフローレンスとともに、最後の馬車に乗った。
伯爵の棺を乗せた馬車を先頭に、長い葬列が教会に向かう。
黒いチュールのベール越しに、シーリアは窓の外を見つめた。
赤と黄色の落ち葉が積もる並木道。
道の脇で領民達が帽子を脱いで頭を下げている。
伯爵の死。ナサニエルはおのずから新たな伯爵となった。
弁護士は、伯爵の死を伝えたと言っていたのに、まだ彼は帰らない。
ただ一つ、彼が既にインドからロンドンに帰ってきていたということは分かった。
シーリアは目を伏せながら人差し指の背を噛んだ。
教会の重たい鐘の音が聞こえた。
教会の最前列の席にシーリアは座った。本来ナサニエルのいるべき隣の席には誰もいない。
黒い手袋をはめた手で落ち着きなく腕をなでた。
彼のいないまま始まった葬儀。
聖書の朗読。
ステンドグラスの尖頭アーチ窓の下、説教を述べ始めた白髪の牧師。
声が、ふいに途切れた。
後ろからざわめきが聞こえる。
首の後ろに鳥肌が立った。
シーリアは牧師の視線の先をゆっくりと、たどった。
入り口に立つ、長身のシルエット。黒のフロックコートに包まれた、更に逞しくなった体。
不自然に動かない右手。
シーリアの口から小さく苦しい声が漏れた。
彼がじっとこちらを見ている。瞳を銀色に煌めかせて。
シーリアが胸に手をあてると、彼も同じように自分の胸に手をあてた。
彼が生きて帰ってきた。
私のすべてが帰ってきた。
途方もない感謝の気持ちが体の奥底からこみ上げて、シーリアを圧倒した。
ナサニエルははやる気持ちを抑えて、ゆっくりと最前列に向かった。
ベールの向こうのシーリアの唇が、うっすらと開いている。
中央通路の奥に置かれた棺。ナサニエルは、父の葬儀だというのにシーリアのことしか考えていない自分に、冷や汗をかいた。
咳払いをすると、父の棺に向かい、しばし目を閉じた。
別れた日の父の姿を思い出す。
勘当を受け入れた私を、どこか誇らしげに見ていた。
話をしたのは、あの日が最後になってしまった。
シーリアの隣に座った。
牧師が再び説教を述べ始めた。
シーリアの繊細なつくりの横顔。近寄りがたいほどに美しかった。
昔のままのそばかすを見つけて、少しほっとする。
綺麗になった。
本当に綺麗になった。
何度も彼女の成長した姿を思い浮かべてきた。
まるで想像力が足りていなかった。
シーリアのエメラルド色の瞳に雫が溜まっている。
こちらを横目で見ながら彼女が頷いた。
ナサニエルは義手を左手でおさえながらブルッと震えた。
今までの苦労が、全て報われた気がした。
その一方で、彼女に問いただしたかった。
インドに来てくれなかったことを。どうして返事もくれなかったのかと。
屋敷の前に集まった、各地から来たフォーチェスター伯爵家の親族。
いくつも用意された馬車に、彼らも次々と乗り込んでいく。
シーリアもフローレンスとともに、最後の馬車に乗った。
伯爵の棺を乗せた馬車を先頭に、長い葬列が教会に向かう。
黒いチュールのベール越しに、シーリアは窓の外を見つめた。
赤と黄色の落ち葉が積もる並木道。
道の脇で領民達が帽子を脱いで頭を下げている。
伯爵の死。ナサニエルはおのずから新たな伯爵となった。
弁護士は、伯爵の死を伝えたと言っていたのに、まだ彼は帰らない。
ただ一つ、彼が既にインドからロンドンに帰ってきていたということは分かった。
シーリアは目を伏せながら人差し指の背を噛んだ。
教会の重たい鐘の音が聞こえた。
教会の最前列の席にシーリアは座った。本来ナサニエルのいるべき隣の席には誰もいない。
黒い手袋をはめた手で落ち着きなく腕をなでた。
彼のいないまま始まった葬儀。
聖書の朗読。
ステンドグラスの尖頭アーチ窓の下、説教を述べ始めた白髪の牧師。
声が、ふいに途切れた。
後ろからざわめきが聞こえる。
首の後ろに鳥肌が立った。
シーリアは牧師の視線の先をゆっくりと、たどった。
入り口に立つ、長身のシルエット。黒のフロックコートに包まれた、更に逞しくなった体。
不自然に動かない右手。
シーリアの口から小さく苦しい声が漏れた。
彼がじっとこちらを見ている。瞳を銀色に煌めかせて。
シーリアが胸に手をあてると、彼も同じように自分の胸に手をあてた。
彼が生きて帰ってきた。
私のすべてが帰ってきた。
途方もない感謝の気持ちが体の奥底からこみ上げて、シーリアを圧倒した。
ナサニエルははやる気持ちを抑えて、ゆっくりと最前列に向かった。
ベールの向こうのシーリアの唇が、うっすらと開いている。
中央通路の奥に置かれた棺。ナサニエルは、父の葬儀だというのにシーリアのことしか考えていない自分に、冷や汗をかいた。
咳払いをすると、父の棺に向かい、しばし目を閉じた。
別れた日の父の姿を思い出す。
勘当を受け入れた私を、どこか誇らしげに見ていた。
話をしたのは、あの日が最後になってしまった。
シーリアの隣に座った。
牧師が再び説教を述べ始めた。
シーリアの繊細なつくりの横顔。近寄りがたいほどに美しかった。
昔のままのそばかすを見つけて、少しほっとする。
綺麗になった。
本当に綺麗になった。
何度も彼女の成長した姿を思い浮かべてきた。
まるで想像力が足りていなかった。
シーリアのエメラルド色の瞳に雫が溜まっている。
こちらを横目で見ながら彼女が頷いた。
ナサニエルは義手を左手でおさえながらブルッと震えた。
今までの苦労が、全て報われた気がした。
その一方で、彼女に問いただしたかった。
インドに来てくれなかったことを。どうして返事もくれなかったのかと。