E組の補習は、恋の予習。~赤点ガールは、先生の「特別」になりたい~

Ⅴ

放課後の静まり返った社会科室。
窓から差し込む夕日が、並べられた教科書やノートをオレンジ色に染め上げていく。

「まさか、内山さんが学年トップをこすなんてね。職員室でも話題になってたんだよ」

伊織先生はそう言って、感心したように目を細めた。
あの後、今回のテストで私が100点で美里ちゃんが98点だったことが判明し、学校中ちょっとした大騒ぎになっていた。赤点常連だった私が、まさかのトップワン。信じられないような、でも最高に誇らしい現実がそこにあった。

「先生が……わかりやすく教えてくれたから……です」

私は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めながら、小さく、だけどはっきりとそう答えた。
伊織先生は少し驚いたような顔をしたあと、ふっと柔らかく、愛おしそうな笑みを浮かべた。

「僕のおかげっていうか、それは君が諦めずに頑張り続けた結果だよ。……本当に、よく頑張ったね、内山さん」

そう言って、先生はまたあの日のように、大きな手で私の頭を優しくなでてくれた。
手のひらの温もり、甘いシャンプーの香り、そして私を真っ直ぐに見つめてくれる優しい瞳。
そのすべてが胸の奥に染み込んで、体の芯が熱くなる。

昔の私なら、きっと「どうせ私なんて」と俯いて、この温もりからすぐに逃げ出していたはずだ。
だけど、今の私は違う。
もっとこの人の近くにいたい。もっと先生の笑顔が見たい。この「100点」も、先生にもっと認められたい一心で駆け抜けたからこそ掴めたものだ。

――好き、なんだ。
この授業が、この場所が、そして、この人が。

胸の奥でずっとくすぶっていた小さな熱が、パッと鮮やかな色を帯びて、もう抑えきれないほどの大きな感情へと変わっていく。
初めて誰かを本気で追いかけたいと思った。初めて知った、この胸が締め付けられるような激しい痛みと、あたたかさ。

窓の外で夕暮れのチャイムが鳴り響く中、私は大きく息を吸い込んで、伊織先生の顔を見上げた。

これは、恋……なのだろうか?


――ううん、きっと、間違いない。
私の恋の補習は、今、満点合格で幕を開けたのだから。
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