終わった恋の、その後で。 〜プレイボーイな曲者御曹司は私にだけ奥手らしい〜
⑩どうやら彼は、私にだけ奥手だったらしい
「――佐山……ごめん、もっかい言ってくれ」
戸惑いがちに言われ、理央は望まれるままにもう一度はっきり告げた。
「伊佐美さんが好きなので、私じゃ駄目ですかって聞いてます。念のため言っておきますけど、玉の輿狙いじゃないですからね」
やはり手のひらを返したような告白では駄目だったのかもしれない。
明かに伊佐美を驚かせており、その証拠に彼が手にしていた小さなスプーンが宙で止まったまま。
しかも珍しく二人の間に沈黙が落ちて、理央は気まずくなって頬に垂れていた髪を無意識に耳に掛けた。
少し身体が熱い。
伊佐美がなかなか返事をしてくれず、その沈黙の分だけ熱が帯びてゆく。
――やはり傲慢だったか。しかし奥手な人間の感情を自分に向けるには、それぐらい言わなければ伝わらないような気がする。
そんな言い訳じみたこと考えていると、伊佐美が小さな声で何か言った。
「……――だから」
「はい?」
いつもの煩いぐらい存在感のある声が余所行きのようになっていて、思わず訊き返す。
「俺の片想いの相手は、お前だから」
「ん?」
今度は聞こえなかったのではなくて、意味が上手く呑み込めず訊き返していた。
「今日からじっくりお前を口説こうと思って」
この店に連れてきた、と視線を逸らして口許を押える伊佐美が今日ほど小さく見えた日はない。
――伊佐美さんが、私を口説く?本気で?
驚きと同時に、気恥ずかしさと、嘘だろうという様々な感情の波が理央に覆いかぶさってきたが、しかし確かに、考えあぐねるような表情で唸る姿が目の前にあった。
いつものスマートな伊佐美ではなく、口を小さく開閉しながら言い淀む態度は、理央の知っているスパダリ感とは程遠い。
そんなたどたどしい態度に、理央の胸は高く跳ねた。
――なにこの人、可愛すぎる。
伊佐美は遠慮気味に言った。
「もっと、こう、俺から交際を申し込むつもりでだな……いや、というか、本当に言ってる?俺のこと揶揄ってないか?二年も連絡しなかったのに……」
「そうですね。二年も他人みたいにほったらかされてましたね……もっと近しい関係だと思ってたのにショックでしたよ」
「すまない……」
「いいですよ、もう」
刺々しく言えば殊勝に謝るので、頬が緩み、現実味のない空気が二人の間に流れた。
刹那、伊佐美が理央を見据えて呼びかける。
「あのさ」
「はい」
「……誰と勘違いしてるか知らないけど、誤解だし、本当にお前だけが好きだよ」
今度は逸らされることなく真っすぐに射抜かれて、いつもの落ち着いた低い声が胸の奥に言葉が響いた。
「色々と隠し事があって悪かった。この二年、俺の都合でお前を繋ぎ止める気がして連絡は出来なかったけど、佐山への気持ちが変わることはなかったから」
「伊佐美さん……」
「お前には何のことだか分からないだろうけど、俺は佐山と出会って、自分の人生が肯定されたような気がしたんだ。お前と居ると迷いなく進めた。それに佐山は……綺麗だし、目が離せない。……恋人になって欲しい」
若干の照れ交じりに告げられた告白に、理央はもうすっかり肩の力が抜けて笑う。
「伊佐美さんて、ほんと……意外と奥手なんですね」
返事をする前に、目の前のグラスに飾られたムースの残りを食べきってしまおうと再びスプーンを手にしながら理央が静かに言うと、伊佐美は急かすことなく穏やかに口端を緩めた。
「お前だからだよ」
そうか。なるほど。
そうだったんだ。
どうやら彼は、私にだけ奥手だったらしい。
戸惑いがちに言われ、理央は望まれるままにもう一度はっきり告げた。
「伊佐美さんが好きなので、私じゃ駄目ですかって聞いてます。念のため言っておきますけど、玉の輿狙いじゃないですからね」
やはり手のひらを返したような告白では駄目だったのかもしれない。
明かに伊佐美を驚かせており、その証拠に彼が手にしていた小さなスプーンが宙で止まったまま。
しかも珍しく二人の間に沈黙が落ちて、理央は気まずくなって頬に垂れていた髪を無意識に耳に掛けた。
少し身体が熱い。
伊佐美がなかなか返事をしてくれず、その沈黙の分だけ熱が帯びてゆく。
――やはり傲慢だったか。しかし奥手な人間の感情を自分に向けるには、それぐらい言わなければ伝わらないような気がする。
そんな言い訳じみたこと考えていると、伊佐美が小さな声で何か言った。
「……――だから」
「はい?」
いつもの煩いぐらい存在感のある声が余所行きのようになっていて、思わず訊き返す。
「俺の片想いの相手は、お前だから」
「ん?」
今度は聞こえなかったのではなくて、意味が上手く呑み込めず訊き返していた。
「今日からじっくりお前を口説こうと思って」
この店に連れてきた、と視線を逸らして口許を押える伊佐美が今日ほど小さく見えた日はない。
――伊佐美さんが、私を口説く?本気で?
驚きと同時に、気恥ずかしさと、嘘だろうという様々な感情の波が理央に覆いかぶさってきたが、しかし確かに、考えあぐねるような表情で唸る姿が目の前にあった。
いつものスマートな伊佐美ではなく、口を小さく開閉しながら言い淀む態度は、理央の知っているスパダリ感とは程遠い。
そんなたどたどしい態度に、理央の胸は高く跳ねた。
――なにこの人、可愛すぎる。
伊佐美は遠慮気味に言った。
「もっと、こう、俺から交際を申し込むつもりでだな……いや、というか、本当に言ってる?俺のこと揶揄ってないか?二年も連絡しなかったのに……」
「そうですね。二年も他人みたいにほったらかされてましたね……もっと近しい関係だと思ってたのにショックでしたよ」
「すまない……」
「いいですよ、もう」
刺々しく言えば殊勝に謝るので、頬が緩み、現実味のない空気が二人の間に流れた。
刹那、伊佐美が理央を見据えて呼びかける。
「あのさ」
「はい」
「……誰と勘違いしてるか知らないけど、誤解だし、本当にお前だけが好きだよ」
今度は逸らされることなく真っすぐに射抜かれて、いつもの落ち着いた低い声が胸の奥に言葉が響いた。
「色々と隠し事があって悪かった。この二年、俺の都合でお前を繋ぎ止める気がして連絡は出来なかったけど、佐山への気持ちが変わることはなかったから」
「伊佐美さん……」
「お前には何のことだか分からないだろうけど、俺は佐山と出会って、自分の人生が肯定されたような気がしたんだ。お前と居ると迷いなく進めた。それに佐山は……綺麗だし、目が離せない。……恋人になって欲しい」
若干の照れ交じりに告げられた告白に、理央はもうすっかり肩の力が抜けて笑う。
「伊佐美さんて、ほんと……意外と奥手なんですね」
返事をする前に、目の前のグラスに飾られたムースの残りを食べきってしまおうと再びスプーンを手にしながら理央が静かに言うと、伊佐美は急かすことなく穏やかに口端を緩めた。
「お前だからだよ」
そうか。なるほど。
そうだったんだ。
どうやら彼は、私にだけ奥手だったらしい。


