双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
それならばルイゾン様でなくても魔獣を倒せる。
だが、ルイゾン様は首を横に振った。
「いや、それは時期尚早だ。仮に作るとしても、ロベールが光魔法を完璧に扱えるようになるまで待つよ」
その言葉に胸を撫で下ろす。
五歳のロベールは体力も魔力もまだ十分ではない。
力が抜けたのを感じ取ったのか、ルイゾン様の腕がごく自然に肩へ回る。触れたところからじんわりと温(ぬく)もりが広がって、そのまま肩に頭を預けた。
さっきより近く、ルイゾン様の声が響く。
「これはたとえばの話なんだが、クラリエ王国と手を組めば、『お守り』作りは捗(はかど)る」
「アルフォンス様ですね……」
隣国の王弟殿下アルフォンス様も、光魔法の使い手だ。
明るくて社交的な方で、賓客として我が国を何度か訪れている。リュムール王国のレヴァティオ皇太子が双子たちを侮辱した時は、怒りが抑えられない私を助けるように、場を取り持ってくださった。
そのことには感謝している。
ただ、魔草を悪用して私を温室に閉じ込めようとしたこともあるので、心から信用しているかと言われたら難しい。
「気持ちはわかるが、そんな顔をするな」
ルイゾン様が笑いをこらえるように言った。
――どんな顔かしら。
とっさに自分の頬に指を当てる。
「きゃっ!」
ルイゾン様は待っていたかのように手を伸ばし、頬に触れていた私の指先をすくい取った。指を絡められ、そのまま大きな手のひらの中へ包み込まれる。
「そうだ。その顔でいい」
笑い声で言われたが自分ではどの顔かわからない。頬が熱いので、真っ赤になっていることは確実だ。ルイゾン様は掴(つか)んだ手を離さずに続ける。
「たとえばの話だと言っただろう? ロベールとマルセルのどちらかがエミリエンヌ嬢と婚約でもしない限り現実的ではない」
私はピンクのリボンが似合う、アルフォンス様のひとり娘エミリエンヌ様を思い浮かべた。王子たちの婚約者として申し分ないが、五歳と七歳では早すぎる。
だが、魔獣討伐も国にとっては懸案だ。
――そういえば。
私はふと思いついてルイゾン様に尋ねる。
「ルイゾン様。紅彗狐のこと、ロベールとマルセルに話さなかったんですね」
てっきり夕食の席でもう一度話題に出すのだと思ったのだ。
ルイゾン様は小さく笑った。
「迷ったんだがね。いかにもふたりが興味を持ちそうな話だろう?」
「ええ、ちょうど今、ドゥードゥー先生に魔獣について教わっているところですもの」
私ですら知らなかった伝説の魔獣だ。あの子たちが目をキラキラさせて耳を傾けるのは想像に難くない。
だがルイゾン様は困ったように眉尻を下げた。
「それなんだよ。魔獣の恐ろしさを知らないうちに、憧れを抱かせては危ないと思ってね」
「……さすがですね」
思わず呟くと、ルイゾン様は不思議そうに言った。
「なにがだ?」
「ルイゾン様はいつもあの子たちの父親だなって」
言い終えた途端、なんだか急に気恥ずかしくなって、視線を落とす。
「す、すみません。偉そうなことを申し上げました」
「いや、他でもない君に、そう言ってもらえると嬉しい」
ホッとして頷くと、ルイゾン様の手に力がこもる。
「どうしても、王子たちと一緒にいる時間が少ないからな。王族としては当たり前かもしれないが、今の私はそれを惜しいと思えるようになっている」
「だから珍しくお酒を?」
ルイゾン様はグラスを掲げた。
「いや、久しぶりに会ったふたりの成長を実感してね。ひとりで乾杯していたんだ。君も飲むか?」
ルイゾン様も同じことを考えていたのだと温かい気持ちになったが、誘いには首を横に振る。
「いいえ、やめておきます。最近さらに弱くなったみたいなんです」
「そうなのか?」
私は内緒話をするように打ち明けた。
「実は昨日、ジャネットのマロングラッセを食べたらすぐに顔が赤くなって……最後まで食べきれなかったんです」
「あんなにうまいのに?」
「はい」
ブランデーをたっぷり使ったマロングラッセは大人の味でとても美味しいのだが、昨日はいつになく濃厚だった。
「度数の強いブランデーをうっかり使ってしまったようで、ジャネットがひとしきり謝っていました」
ルイゾン様は声をたてて笑った。
「慌てるジャネットと、真っ赤になって水を飲む君の様子が目に浮かぶよ。見たかったな」
「見せませんよ!」
「残念だな」
言葉とは裏腹に楽しそうにグラスを傾ける。
滅多に酔わないルイゾン様だが今夜は酔いが回るのが早いのか、いつになく艶めいて見えた。
――遠征帰りでお疲れなんだわ。
就寝を促そうとしたら、ルイゾン様が先に切り出した。
「ジュリア、もうひとつ、言っておかなければならないことがある。ロベールとマルセルなんだが」
思わず、ルイゾン様の肩に預けていた頭を上げる。
「あの子たちがどうしたんですか!?」
肩を抱いていた腕に、宥めるように力がこもった。
「大丈夫だ。落ち着いてくれ。そんな慌てるような話じゃない」
だが、ルイゾン様は首を横に振った。
「いや、それは時期尚早だ。仮に作るとしても、ロベールが光魔法を完璧に扱えるようになるまで待つよ」
その言葉に胸を撫で下ろす。
五歳のロベールは体力も魔力もまだ十分ではない。
力が抜けたのを感じ取ったのか、ルイゾン様の腕がごく自然に肩へ回る。触れたところからじんわりと温(ぬく)もりが広がって、そのまま肩に頭を預けた。
さっきより近く、ルイゾン様の声が響く。
「これはたとえばの話なんだが、クラリエ王国と手を組めば、『お守り』作りは捗(はかど)る」
「アルフォンス様ですね……」
隣国の王弟殿下アルフォンス様も、光魔法の使い手だ。
明るくて社交的な方で、賓客として我が国を何度か訪れている。リュムール王国のレヴァティオ皇太子が双子たちを侮辱した時は、怒りが抑えられない私を助けるように、場を取り持ってくださった。
そのことには感謝している。
ただ、魔草を悪用して私を温室に閉じ込めようとしたこともあるので、心から信用しているかと言われたら難しい。
「気持ちはわかるが、そんな顔をするな」
ルイゾン様が笑いをこらえるように言った。
――どんな顔かしら。
とっさに自分の頬に指を当てる。
「きゃっ!」
ルイゾン様は待っていたかのように手を伸ばし、頬に触れていた私の指先をすくい取った。指を絡められ、そのまま大きな手のひらの中へ包み込まれる。
「そうだ。その顔でいい」
笑い声で言われたが自分ではどの顔かわからない。頬が熱いので、真っ赤になっていることは確実だ。ルイゾン様は掴(つか)んだ手を離さずに続ける。
「たとえばの話だと言っただろう? ロベールとマルセルのどちらかがエミリエンヌ嬢と婚約でもしない限り現実的ではない」
私はピンクのリボンが似合う、アルフォンス様のひとり娘エミリエンヌ様を思い浮かべた。王子たちの婚約者として申し分ないが、五歳と七歳では早すぎる。
だが、魔獣討伐も国にとっては懸案だ。
――そういえば。
私はふと思いついてルイゾン様に尋ねる。
「ルイゾン様。紅彗狐のこと、ロベールとマルセルに話さなかったんですね」
てっきり夕食の席でもう一度話題に出すのだと思ったのだ。
ルイゾン様は小さく笑った。
「迷ったんだがね。いかにもふたりが興味を持ちそうな話だろう?」
「ええ、ちょうど今、ドゥードゥー先生に魔獣について教わっているところですもの」
私ですら知らなかった伝説の魔獣だ。あの子たちが目をキラキラさせて耳を傾けるのは想像に難くない。
だがルイゾン様は困ったように眉尻を下げた。
「それなんだよ。魔獣の恐ろしさを知らないうちに、憧れを抱かせては危ないと思ってね」
「……さすがですね」
思わず呟くと、ルイゾン様は不思議そうに言った。
「なにがだ?」
「ルイゾン様はいつもあの子たちの父親だなって」
言い終えた途端、なんだか急に気恥ずかしくなって、視線を落とす。
「す、すみません。偉そうなことを申し上げました」
「いや、他でもない君に、そう言ってもらえると嬉しい」
ホッとして頷くと、ルイゾン様の手に力がこもる。
「どうしても、王子たちと一緒にいる時間が少ないからな。王族としては当たり前かもしれないが、今の私はそれを惜しいと思えるようになっている」
「だから珍しくお酒を?」
ルイゾン様はグラスを掲げた。
「いや、久しぶりに会ったふたりの成長を実感してね。ひとりで乾杯していたんだ。君も飲むか?」
ルイゾン様も同じことを考えていたのだと温かい気持ちになったが、誘いには首を横に振る。
「いいえ、やめておきます。最近さらに弱くなったみたいなんです」
「そうなのか?」
私は内緒話をするように打ち明けた。
「実は昨日、ジャネットのマロングラッセを食べたらすぐに顔が赤くなって……最後まで食べきれなかったんです」
「あんなにうまいのに?」
「はい」
ブランデーをたっぷり使ったマロングラッセは大人の味でとても美味しいのだが、昨日はいつになく濃厚だった。
「度数の強いブランデーをうっかり使ってしまったようで、ジャネットがひとしきり謝っていました」
ルイゾン様は声をたてて笑った。
「慌てるジャネットと、真っ赤になって水を飲む君の様子が目に浮かぶよ。見たかったな」
「見せませんよ!」
「残念だな」
言葉とは裏腹に楽しそうにグラスを傾ける。
滅多に酔わないルイゾン様だが今夜は酔いが回るのが早いのか、いつになく艶めいて見えた。
――遠征帰りでお疲れなんだわ。
就寝を促そうとしたら、ルイゾン様が先に切り出した。
「ジュリア、もうひとつ、言っておかなければならないことがある。ロベールとマルセルなんだが」
思わず、ルイゾン様の肩に預けていた頭を上げる。
「あの子たちがどうしたんですか!?」
肩を抱いていた腕に、宥めるように力がこもった。
「大丈夫だ。落ち着いてくれ。そんな慌てるような話じゃない」