双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
「え?」
顔を上げると、苦笑するルイゾン様と目が合った。
「今、不穏なことを考えていただろう?」
まさか、と首を横に振る。
「いいえ! むしろ真面目なことです! 魔草を食べたらどうなるか考えていました」
ロベールとマルセルがびっくりしたように問い返す。
「まそう?」
「たべられるんですか?」
私は慌てて止めた。
「普通は食べちゃダメよ。ロベールとマルセルは小さいから余計にダメ」
「ジュリアもダメだ」
「……ハイ」
ルイゾン様は小さく笑う。
「やはり止めてよかった」
私はルイゾン様にだけ聞こえるように囁いた。
「ですが、どの魔草も毒は見つかっていませんよ?」
「それでも、長い間食料にされてこなかったんだ。なにか理由にあるに違いない。……理由がなくてもやめてくれ」
私は自分の黒髪を揺らして頷く。
「承知しました……」
この長さになった時のことを思うと、無茶は言えない。ただでさえ心配をかけている自覚はあるのだ。食べてみてやっぱり毒だったとわかっても遅い。
「そんなにわかりやすかったですか?」
降参したように尋ねると、ルイゾン様は当たり前のように笑った。
「好奇心を抱くと、君はすぐに顔を輝かせるんだ」
――顔?
その会話が聞こえたのか、ロベールとマルセルが首を傾げながら、お互いを鏡のようにして見つめ合う。
「かお?」
「かがやく?」
「本当に光るわけじゃないのよ」
なあんだ、というようにロベールとマルセルがこちらを向いて笑う。
それだけでまた胸が温かくなった。
そんな私の耳元で、ルイゾン様がもう一度囁いた。
「このまま、私だけにわかりやすくいてくれ」
そのひと言が甘く響いて答えに詰まる。
当のルイゾン様は涼しい顔で給仕を呼び寄せたりしているのに。
「そろそろデザートを出してもらおうか」
「デザート!」
「たのしみです!」
ロベールとマルセルの歓声に包まれながら、ジャネット特製のパンデピスが並べられていく。
「帰ってきたという気になるね」
ルイゾン様の言葉に私まで嬉しくなった。
「お好きですものね。たくさん召し上がってください」
「ああ、料理もだけどね」
「なんですか?」
問いかけると、ルイゾン様はゆったりと笑う。
「君と王子たちと一緒に食べるからそう思うんだ」
その言葉が一番のご馳走だった。
‡
食事が済んでからも、ロベールとマルセルはなかなか席を立とうとしなかった。久しぶりにルイゾン様と話せるのがよほど嬉しかったのだろう。
ベッドに入る時間も遅くなったが、その代わり、横になるとすぐに寝入ってしまった。
ふたりとも口元がほんのり緩んだまま、毛布に包まれている。
――今夜は楽しい夢を見るわね。
肩まで毛布を引き上げて寝顔を見届けてから、ルイゾン様が待つ寝室に戻った。
遠征の疲れから先に休んでいるかと思ったが、暖炉の前のソファに座ったルイゾン様は、パチパチと音を立てる炎を眺めながら珍しく赤ワインを飲んでいた。
いつ魔獣が出ても駆けつけられるようにと、普段はお酒を飲まないのだが、まだ気が昂っているのだろうか。
「ラプローを全部片付けたのがそんなに嬉しかったんですか」
冗談交じりに話しかけると、ルイゾン様は首を横に振る。
「いや……考えていたんだ」
「なにをですか?」
ルイゾン様はグラスを置いて私に向き直った。
「ロベールとマルセルが協力して、光魔法をペルルに閉じ込めたことがあっただろう? 私は君から話を聞いただけだが、それでも十分驚いた」
――あの「お守り」のことだ。
青狼に投げつけると、致命傷こそ負わせられなかったものの、怯ませることはできた。
ルイゾン様はあれを上級解呪魔法すら上回る力ではないかと見ている。
そんなことを思い出しながら、私は隣に腰かけた。
ルイゾン様は私の髪を耳にかけながら続ける。
「今回、ラプローを一気に倒せたのはそのおかげだ」
――「お守り」はあれ一度しか作っていないのに?
そう思いながら次の言葉を待っていると、ルイゾン様はいたずらを打ち明けるみたいに告げた。
「あれをヒントに、思い切って複数の上級魔法を魔獣にかけ続けたんだ」
――なんですって?
ルイゾン様はどこか得意げに笑う。
「賭けではあったが、成功した。魔法との相性が悪いはずの魔獣に、かなりの痛手を与えられた。それで早く帰れたんだ」
ため息が漏れた。
「ルイゾン様にしかできないことですね」
簡単そうに言っているが、誰にでもできることではない。攻撃に転じるほどの威力がなければ、ただ魔獣を引き寄せるだけだ。複数の上級魔法の使い手であり、それをかけ続けられるルイゾン様だから成功した。
「今は確かに私だけだが……」
珍しく歯切れが悪いので、思い切って先回りする。
「もしかして、ロベールの『お守り』を大量に作るつもりですか?」
顔を上げると、苦笑するルイゾン様と目が合った。
「今、不穏なことを考えていただろう?」
まさか、と首を横に振る。
「いいえ! むしろ真面目なことです! 魔草を食べたらどうなるか考えていました」
ロベールとマルセルがびっくりしたように問い返す。
「まそう?」
「たべられるんですか?」
私は慌てて止めた。
「普通は食べちゃダメよ。ロベールとマルセルは小さいから余計にダメ」
「ジュリアもダメだ」
「……ハイ」
ルイゾン様は小さく笑う。
「やはり止めてよかった」
私はルイゾン様にだけ聞こえるように囁いた。
「ですが、どの魔草も毒は見つかっていませんよ?」
「それでも、長い間食料にされてこなかったんだ。なにか理由にあるに違いない。……理由がなくてもやめてくれ」
私は自分の黒髪を揺らして頷く。
「承知しました……」
この長さになった時のことを思うと、無茶は言えない。ただでさえ心配をかけている自覚はあるのだ。食べてみてやっぱり毒だったとわかっても遅い。
「そんなにわかりやすかったですか?」
降参したように尋ねると、ルイゾン様は当たり前のように笑った。
「好奇心を抱くと、君はすぐに顔を輝かせるんだ」
――顔?
その会話が聞こえたのか、ロベールとマルセルが首を傾げながら、お互いを鏡のようにして見つめ合う。
「かお?」
「かがやく?」
「本当に光るわけじゃないのよ」
なあんだ、というようにロベールとマルセルがこちらを向いて笑う。
それだけでまた胸が温かくなった。
そんな私の耳元で、ルイゾン様がもう一度囁いた。
「このまま、私だけにわかりやすくいてくれ」
そのひと言が甘く響いて答えに詰まる。
当のルイゾン様は涼しい顔で給仕を呼び寄せたりしているのに。
「そろそろデザートを出してもらおうか」
「デザート!」
「たのしみです!」
ロベールとマルセルの歓声に包まれながら、ジャネット特製のパンデピスが並べられていく。
「帰ってきたという気になるね」
ルイゾン様の言葉に私まで嬉しくなった。
「お好きですものね。たくさん召し上がってください」
「ああ、料理もだけどね」
「なんですか?」
問いかけると、ルイゾン様はゆったりと笑う。
「君と王子たちと一緒に食べるからそう思うんだ」
その言葉が一番のご馳走だった。
‡
食事が済んでからも、ロベールとマルセルはなかなか席を立とうとしなかった。久しぶりにルイゾン様と話せるのがよほど嬉しかったのだろう。
ベッドに入る時間も遅くなったが、その代わり、横になるとすぐに寝入ってしまった。
ふたりとも口元がほんのり緩んだまま、毛布に包まれている。
――今夜は楽しい夢を見るわね。
肩まで毛布を引き上げて寝顔を見届けてから、ルイゾン様が待つ寝室に戻った。
遠征の疲れから先に休んでいるかと思ったが、暖炉の前のソファに座ったルイゾン様は、パチパチと音を立てる炎を眺めながら珍しく赤ワインを飲んでいた。
いつ魔獣が出ても駆けつけられるようにと、普段はお酒を飲まないのだが、まだ気が昂っているのだろうか。
「ラプローを全部片付けたのがそんなに嬉しかったんですか」
冗談交じりに話しかけると、ルイゾン様は首を横に振る。
「いや……考えていたんだ」
「なにをですか?」
ルイゾン様はグラスを置いて私に向き直った。
「ロベールとマルセルが協力して、光魔法をペルルに閉じ込めたことがあっただろう? 私は君から話を聞いただけだが、それでも十分驚いた」
――あの「お守り」のことだ。
青狼に投げつけると、致命傷こそ負わせられなかったものの、怯ませることはできた。
ルイゾン様はあれを上級解呪魔法すら上回る力ではないかと見ている。
そんなことを思い出しながら、私は隣に腰かけた。
ルイゾン様は私の髪を耳にかけながら続ける。
「今回、ラプローを一気に倒せたのはそのおかげだ」
――「お守り」はあれ一度しか作っていないのに?
そう思いながら次の言葉を待っていると、ルイゾン様はいたずらを打ち明けるみたいに告げた。
「あれをヒントに、思い切って複数の上級魔法を魔獣にかけ続けたんだ」
――なんですって?
ルイゾン様はどこか得意げに笑う。
「賭けではあったが、成功した。魔法との相性が悪いはずの魔獣に、かなりの痛手を与えられた。それで早く帰れたんだ」
ため息が漏れた。
「ルイゾン様にしかできないことですね」
簡単そうに言っているが、誰にでもできることではない。攻撃に転じるほどの威力がなければ、ただ魔獣を引き寄せるだけだ。複数の上級魔法の使い手であり、それをかけ続けられるルイゾン様だから成功した。
「今は確かに私だけだが……」
珍しく歯切れが悪いので、思い切って先回りする。
「もしかして、ロベールの『お守り』を大量に作るつもりですか?」