双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
当のルイゾン様は涼しい顔だ。

「そのうち皆も動けるようになるさ」

 ピエリックはしみじみと呟く。

「あれだけの数の魔獣をほぼおひとりで倒すだけでもすごいのに、まったく疲れた様子がない……愛の力ってすごいですね」

 ――愛の力?

「ゴホッゴホンッ」

 さっきとは違い本気でむせた私に、マリヴォンヌが心配そうに駆け寄った。

「ジュリア様? 大丈夫ですか?」

『愛の力』には触れないでいようと思った私は、こくこくと頷くのが精いっぱいだ。

 そのやり取りを見ていたピエリックが意外そうに声をあげる。

「マリヴォンヌ! いたんですか」

 ――今頃?

 同じことを思ったのか、ルイゾン様が呆れたように指摘した。

「マリヴォンヌならずっといたぞ?」

 マリヴォンヌ本人も不思議そうに答える。

「ジュリア様のおそばにいるのが私の仕事ですから」

 ピエリックが納得したように頭をかく。

「それもそうですね……」
「おかしな男だ」

 すると、やり取りを聞いていたサニタがおずおずと口を開いた。

「ピエリック様が驚いたのは、サニタのせいかもしれません」
「まあ、サニタ。どうして?」

 促すと、サニタは一生懸命説明する。

「いつもならドアを開けるのはマリヴォンヌ様なんです。今日はサニタが開けてしまったので、ピエリック様はマリヴォンヌ様がお留守だと思ったのかと」

 なるほど。

 マリヴォンヌはお茶の用意をしていたので、取り次げなかったのだ。

 ――つまり、ピエリックは常にマリヴォンヌがいるかどうか気にしているのね? サニタにわかるほどの頻度で。

 だが、ピエリックは首をブンブンと横に振って否定した。

「いえ! 俺がぼんやりしていただけです! 疲れていたので」

 疲れているのは本当だろうが、マリヴォンヌがいる前で、サニタの言う通りだとも言えないだろう。私はあえて話題を変えた。

「ピエリックも座ってお茶をいかが? マリヴォンヌ、ひとつ追加でお願い」

 頼りになる侍女頭は動揺した素振りすら見せない。

「もう準備しています」

 さすがだ。

 ピエリックはおずおずとルイゾン様の向かい側に腰を下ろした。あっという間に三人分のお茶がテーブルに並べられ、ルイゾン様が満足そうにカップを持ち上げる。

「うん、いい香りだ」

 私も頷いて、カップを手にした。

「本当ね。お茶の葉もだけど、マリヴォンヌの淹れ方が上手なの」

 マリヴォンヌは恐縮したように頭を下げる。

「恐れ入ります」

 そんな風に和やかに始まったお茶の時間だが、ピエリックだけなかなかカップに口を付けようとしなかった。さっきまでの元気が嘘のように、マリヴォンヌのひとつにまとめられた赤毛を目で追っている。

 ――やっぱり変ね。マリヴォンヌとなにかあったのかしら? でもマリヴォンヌの様子はいつも通りだし。

 そんなことを考えている私に、ルイゾン様が湯気越しに話しかけた。

「ロベールとマルセルは今、勉強中だろう? 夕食の時に突然現れて驚かそうと思っている」

 その言葉に、胸の奥が一気に温かくなる。

 私同様、ルイゾン様のお帰りはまだ先だと思っているふたりは今頃、魔法学の講義を受けているはずだ。

「では、それまで私も黙っていますね」

 夕食の席にルイゾン様が現れたら、さぞ喜ぶだろう。それぞれの青い瞳をまん丸にして驚くところが見たい。

 ――想像しただけでかわいいわ。

 浮き浮きして頬が緩むのを抑え切れない私に、ルイゾン様が笑いかけた。

「王子たちのことを考えて笑っているんだろうけど、私からしたらそんなジュリアもかわいいよ」

 ――ですから、皆の前でそんなことを!

 ピエリックが私に向かって慰めるように言う。

「王妃殿下、大丈夫です」

 ピエリックの『大丈夫』が大丈夫でないことは先ほどのやり取りで学んでいる。身構えると、案の定ピエリックはあっさり告げた。

「ルイゾン様は遠征中もずっとこの調子でした。ですから、大丈夫です」

 ――ずっと……この調子?


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