双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
同じように立ち上がったピエリックは、すでにいつものピエリックだった。
「先にあちらに顔を出していれば、怒られなかったと思いますよ。いろいろと確認しなきゃいけないことがあるんでしょう?」
ルイゾン様は振り返って、私の髪に手を伸ばす。
「無理だな。ジュリアが一番に決まっている」
見送ろうと後に続いていた私は、照れすぎて黙ってしまった。
――だから……そういうことを……皆の前で……。
ルイゾン様は私の額にそっと唇をつける。サニタが遠くで、きゃあ、という表情になったのが見えた。
「では、また後で。愛しい妻」
そう言い残して、執務室に戻っていく。
――だから! そういうことを平気で……! 嬉しいけど!
ピエリックも一礼して部屋を出ていった。
ふたりがいなくなると同時に、マリヴォンヌとサニタが我慢できないというように話し出す。
「陛下とジュリア様はますます仲がいいですね」
「本当に! とっても素敵なおふたりです!」
そんなことはないとは言えなくて、答えに詰まっているとサニタが付け加えた。
「女官長のフロランス様と主席近侍のオーギュスタン様も、陛下とジュリア様の仲がよくて結構だとこの間話していました」
――この離宮だけでなく、本宮殿までそんな噂が出回っているの?
黒髪であることを理由に実家で疎外されてきた過去を持つ私は、ルイゾン様の真っ直ぐな愛情にどうしても照れすぎてしまう。
どう振る舞うのが正解かわからず、いちいち恥ずかしくなったり、でもちょっと嬉しくなったりして、結果、もごもごしてしまうのだ。
人前ではできるだけいつも通り振る舞おうとしているのだが、フロランスやオーギュスタンには見破られている気がする。
――あのふたりのことだから、正面切ってなにがあったか聞くことはないでしょうけど……万が一、どうして最近さらに仲よくなったか詮索されたら……なんて言えばいいか……。
私のそんな葛藤を知るよしもないサニタは、カップを片付けながら思い出したように言った。
「魔獣といえば、ジュリア様の髪を切ったのも魔獣なんですよね。無事でよかったです」
マリヴォンヌも相槌を打つ。
「本当に。短い髪もお似合いですけど、その時のことを想像すると今でもゾッとしますわ」
「皆には心配をかけたわ」
肩までの長さになった黒髪をサラリと揺らしながら私は答えた。もともと腰まであった髪は、青狼(アオイー)の鋭い牙に触れただけで、ザックリと切り落とされたのだ。
間一髪でルイゾン様に助けられたからよかったようなものの、我ながら本当に無謀だった。前線で魔獣と対峙し慣れているルイゾン様でなければ、仕留められなかっただろう。
そうやっていつも、誰かが傷つく前にと、全力を尽くしている。
――今回も。
胸の内に温かいものが広がって、自然と言葉が漏れた。
「……今日は早めに切り上げましょう」
マリヴォンヌとサニタの目が輝いた。放っておくと仕事ばかりすると、いつも心配されているのだ。
「それがよろしいです!」
「皆様でゆっくりしてください!」
ふたりに微笑みかけた私は、やる気を出して書類の山をこなしていく。
ルイゾン様の帰還を喜ぶロベールとマルセルがいる夕食の席に、早く着きたかった。
‡
そして、その夜。
「父上?」
「え? 父上ですか?」
私と一緒に食堂に足を踏み入れたロベールとマルセルは、思った通り目を丸くした。
眉上と襟足で切り揃(そろ)えられた銀髪は、今日もサラサラと揺れている。
幼いながらも高貴さを感じさせる顔立ちはルイゾン様譲りだが、今は瞬きも忘れたように目を見開き、唇がわずかに開いている。
――この表情はルイゾン様しか引き出せないわね。
私はくすっと笑いながら、再会の様子を見守る。
先に席に着いていたルイゾン様は立ち上がって、ふたりに近付いた。
「ロベール。マルセル。帰ったぞ」
ロベールとマルセルは弾かれたようにルイゾン様に駆け寄る。
「おかえりなさいませ!」
「おかえりなさい、父上!」
屈み込んだルイゾン様は腕を大きく広げ、正面からふたりを抱きしめた。
「驚いたか?」
「とてもおどろきました!」
「わたしもおどろきました!」
「先にあちらに顔を出していれば、怒られなかったと思いますよ。いろいろと確認しなきゃいけないことがあるんでしょう?」
ルイゾン様は振り返って、私の髪に手を伸ばす。
「無理だな。ジュリアが一番に決まっている」
見送ろうと後に続いていた私は、照れすぎて黙ってしまった。
――だから……そういうことを……皆の前で……。
ルイゾン様は私の額にそっと唇をつける。サニタが遠くで、きゃあ、という表情になったのが見えた。
「では、また後で。愛しい妻」
そう言い残して、執務室に戻っていく。
――だから! そういうことを平気で……! 嬉しいけど!
ピエリックも一礼して部屋を出ていった。
ふたりがいなくなると同時に、マリヴォンヌとサニタが我慢できないというように話し出す。
「陛下とジュリア様はますます仲がいいですね」
「本当に! とっても素敵なおふたりです!」
そんなことはないとは言えなくて、答えに詰まっているとサニタが付け加えた。
「女官長のフロランス様と主席近侍のオーギュスタン様も、陛下とジュリア様の仲がよくて結構だとこの間話していました」
――この離宮だけでなく、本宮殿までそんな噂が出回っているの?
黒髪であることを理由に実家で疎外されてきた過去を持つ私は、ルイゾン様の真っ直ぐな愛情にどうしても照れすぎてしまう。
どう振る舞うのが正解かわからず、いちいち恥ずかしくなったり、でもちょっと嬉しくなったりして、結果、もごもごしてしまうのだ。
人前ではできるだけいつも通り振る舞おうとしているのだが、フロランスやオーギュスタンには見破られている気がする。
――あのふたりのことだから、正面切ってなにがあったか聞くことはないでしょうけど……万が一、どうして最近さらに仲よくなったか詮索されたら……なんて言えばいいか……。
私のそんな葛藤を知るよしもないサニタは、カップを片付けながら思い出したように言った。
「魔獣といえば、ジュリア様の髪を切ったのも魔獣なんですよね。無事でよかったです」
マリヴォンヌも相槌を打つ。
「本当に。短い髪もお似合いですけど、その時のことを想像すると今でもゾッとしますわ」
「皆には心配をかけたわ」
肩までの長さになった黒髪をサラリと揺らしながら私は答えた。もともと腰まであった髪は、青狼(アオイー)の鋭い牙に触れただけで、ザックリと切り落とされたのだ。
間一髪でルイゾン様に助けられたからよかったようなものの、我ながら本当に無謀だった。前線で魔獣と対峙し慣れているルイゾン様でなければ、仕留められなかっただろう。
そうやっていつも、誰かが傷つく前にと、全力を尽くしている。
――今回も。
胸の内に温かいものが広がって、自然と言葉が漏れた。
「……今日は早めに切り上げましょう」
マリヴォンヌとサニタの目が輝いた。放っておくと仕事ばかりすると、いつも心配されているのだ。
「それがよろしいです!」
「皆様でゆっくりしてください!」
ふたりに微笑みかけた私は、やる気を出して書類の山をこなしていく。
ルイゾン様の帰還を喜ぶロベールとマルセルがいる夕食の席に、早く着きたかった。
‡
そして、その夜。
「父上?」
「え? 父上ですか?」
私と一緒に食堂に足を踏み入れたロベールとマルセルは、思った通り目を丸くした。
眉上と襟足で切り揃(そろ)えられた銀髪は、今日もサラサラと揺れている。
幼いながらも高貴さを感じさせる顔立ちはルイゾン様譲りだが、今は瞬きも忘れたように目を見開き、唇がわずかに開いている。
――この表情はルイゾン様しか引き出せないわね。
私はくすっと笑いながら、再会の様子を見守る。
先に席に着いていたルイゾン様は立ち上がって、ふたりに近付いた。
「ロベール。マルセル。帰ったぞ」
ロベールとマルセルは弾かれたようにルイゾン様に駆け寄る。
「おかえりなさいませ!」
「おかえりなさい、父上!」
屈み込んだルイゾン様は腕を大きく広げ、正面からふたりを抱きしめた。
「驚いたか?」
「とてもおどろきました!」
「わたしもおどろきました!」