双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
ルイゾン様がお留守の時は広すぎた食堂も、今は親密な空気に満ちている。
――ロベールとマルセルも本当に嬉しそうだわ。
できる限り親子の時間を取ってもらいたいと、離れたところからそっと眺める。ロベールとマルセルの柔らかな頬が薔(ば)薇(ら)色に輝き、青い瞳はキラキラしていた。
だけど、そんな私に気付いてくれるのもルイゾン様なのだ。
「ジュリア? なぜそんな遠くにいるんだ」
ロベールとマルセルも、間髪を容れず大声を出す。
「母上もこっちにきてください!」
「そうです! 母上、とおいです!」
あらあら、と私は笑いながら三人に近寄って屈み込んだ。
ロベールとマルセルが交互に口を開く。
「母上! 母上もおどろきましたか?」
「母上もずっとまっていましたもんね!」
ルイゾン様の目が意味ありげに細められた。
「ほう、ジュリアもそんなに待ってくれていたのか」
「え? ええ、もちろんです」
なぜか焦りを感じていると、ルイゾン様が小声で言い添えた。
「それは嬉しいな。君がどれくらい私を待ってくれていたのかは、また後でじっくり聞くことにするよ」
――お留守の間のことを知りたいだけ……よね?
懸念を抱く私をよそに、ルイゾン様が腰を上げる。
「よし、積もる話は食べながらにしよう」
つられたように私たちも立ち上がった。
「はい! わたし、たくさんたべます」
「わたしもです!」
――なんて頼もしいの!
「そうね、母上も負けないわ」
『後でじっくり』も気になったが、ロベールとマルセルの幸せそうな様子を少しでも見逃したくなくて、私はいそいそとふたりの正面に座った。
給仕たちが音もなくお皿を並べ出し、楽しい晩餐が始まる。
前菜のキノコのパイ包みを食べながら、ルイゾン様がふたりに聞いた。
「父上がいない間、なにか変わったことはあったか?」
ロベールが胸を張る。
「わたし、火のまほうがもっとじょうずになりました」
マルセルもすかさず言い添えた。
「わたしは、四大まほうのかいせつがもっとじょうずになりました。ドゥードゥー先生もほめてくれました」
ドゥードゥー先生とは、ふたりの魔法学の先生だ。本名はメティオ・ドゥルセというのだが、今や宮殿中の人がドゥードゥー先生と呼ぶ。『武のドゥルセ』ことドゥルセ辺境伯家出身なのだが、武術より学問に興味を抱き、ひそかに筆名で探偵小説も書いている多才な方だ。
火魔法を象徴するワインレッドの髪を、右が短く左が長いアシンメトリーに揃えているドゥードゥー先生は、王妃宮で働く女性たちに大人気だ。二十四歳という若さで魔法学の権威に上り詰めているのに、偉ぶったところがないのも好感度が高い理由のひとつだろう。
ロベールとマルセルの目線に立って丁寧に教えてくれるので、ふたりとも魔法学の授業が大好きだ。毎日とても頑張っている。
ルイゾン様はそんなふたりを労う。
「火の魔法が上達したのか。実践できるのもすごいが、解説ができるのも偉い。さすがロベールとマルセルだ」
ロベールとマルセルはお互いに顔を見合わせてえへへと笑った。
――かわいい……!
毎日会っているのに、毎日かわいい。当たり前だけど当たり前じゃない気がして、食事の手を止めてまじまじと見つめてしまう。
今日のふたりはベロア素材のジャケットと半ズボンを身につけている。長ズボンを嫌うのは相変わらずなので、長靴下をピッタリと引き上げて履いていた。
身長が伸びたせいで去年と同じ服はもう入らない。上着もズボンも靴下も、全部この冬のために新調したものだ。
――もうすぐ六歳だものね。出会った時はまだ四歳だったのに。
ロベールとマルセルに出会ってから、時の流れを実感するようになった。自分が歳を重ねることには無頓着なのだが、ロベールとマルセルの一日一日が積み重なったものが一年だと思うと愛おしくもあり、寂しくもあり、頼もしくもあるという、複雑な気持ちになるのだ。
「鹿の背肉ロースト、赤ワインソースでございます。王子殿下たちは林檎と肉汁の甘いソースでお召し上がりください」
「これはうまそうだ」
メイン料理を前にしたルイゾン様の言葉に、私は気持ちを切り替えようと笑みを浮かべた。
――鹿の背肉、ルイゾン様はお好きですものね。
貯蔵庫にあった上質な鹿を意気揚々と調理する料理長の顔が浮かぶ。添えられた栗の実も、赤ワインのソースも、すべてルイゾン様が好む味付けだった。
ホロリとした鹿肉をひと口食べて、思わず呟く。
「美味しい……」
ルイゾン様も満足そうだ。
「ああ。やはりこの味だ」
ロベールとマルセルも嬉しそうに頷いている。
「栗だ! わたし、木の実ならなんでも好きです!」
「わたしも木の実大好きです!」
――ロベールは好きなものを先に食べて、マルセルは後で食べるのよね。
すでに栗の実を食べ切っているロベールのお皿と、鹿肉から平らげて栗を残しているマルセルのお皿を見比べて、小さく笑う。最近、顕著になったふたりの違いだ。
「おいしいです!」
「とってもおいしいです!」
とはいえ、フォークを動かす様子はピッタリと一致するように同じ動きなのが双子らしい。
――ふたりとも最近さらによく食べるようになったわ。
私以上に食べるようになる日も近いだろうと思いながら鹿肉を味わっていたら、マルセルが思いついたように言った。
「父上、まじゅうたいじのときは、なにをめしあがっているんですか?」
――ロベールとマルセルも本当に嬉しそうだわ。
できる限り親子の時間を取ってもらいたいと、離れたところからそっと眺める。ロベールとマルセルの柔らかな頬が薔(ば)薇(ら)色に輝き、青い瞳はキラキラしていた。
だけど、そんな私に気付いてくれるのもルイゾン様なのだ。
「ジュリア? なぜそんな遠くにいるんだ」
ロベールとマルセルも、間髪を容れず大声を出す。
「母上もこっちにきてください!」
「そうです! 母上、とおいです!」
あらあら、と私は笑いながら三人に近寄って屈み込んだ。
ロベールとマルセルが交互に口を開く。
「母上! 母上もおどろきましたか?」
「母上もずっとまっていましたもんね!」
ルイゾン様の目が意味ありげに細められた。
「ほう、ジュリアもそんなに待ってくれていたのか」
「え? ええ、もちろんです」
なぜか焦りを感じていると、ルイゾン様が小声で言い添えた。
「それは嬉しいな。君がどれくらい私を待ってくれていたのかは、また後でじっくり聞くことにするよ」
――お留守の間のことを知りたいだけ……よね?
懸念を抱く私をよそに、ルイゾン様が腰を上げる。
「よし、積もる話は食べながらにしよう」
つられたように私たちも立ち上がった。
「はい! わたし、たくさんたべます」
「わたしもです!」
――なんて頼もしいの!
「そうね、母上も負けないわ」
『後でじっくり』も気になったが、ロベールとマルセルの幸せそうな様子を少しでも見逃したくなくて、私はいそいそとふたりの正面に座った。
給仕たちが音もなくお皿を並べ出し、楽しい晩餐が始まる。
前菜のキノコのパイ包みを食べながら、ルイゾン様がふたりに聞いた。
「父上がいない間、なにか変わったことはあったか?」
ロベールが胸を張る。
「わたし、火のまほうがもっとじょうずになりました」
マルセルもすかさず言い添えた。
「わたしは、四大まほうのかいせつがもっとじょうずになりました。ドゥードゥー先生もほめてくれました」
ドゥードゥー先生とは、ふたりの魔法学の先生だ。本名はメティオ・ドゥルセというのだが、今や宮殿中の人がドゥードゥー先生と呼ぶ。『武のドゥルセ』ことドゥルセ辺境伯家出身なのだが、武術より学問に興味を抱き、ひそかに筆名で探偵小説も書いている多才な方だ。
火魔法を象徴するワインレッドの髪を、右が短く左が長いアシンメトリーに揃えているドゥードゥー先生は、王妃宮で働く女性たちに大人気だ。二十四歳という若さで魔法学の権威に上り詰めているのに、偉ぶったところがないのも好感度が高い理由のひとつだろう。
ロベールとマルセルの目線に立って丁寧に教えてくれるので、ふたりとも魔法学の授業が大好きだ。毎日とても頑張っている。
ルイゾン様はそんなふたりを労う。
「火の魔法が上達したのか。実践できるのもすごいが、解説ができるのも偉い。さすがロベールとマルセルだ」
ロベールとマルセルはお互いに顔を見合わせてえへへと笑った。
――かわいい……!
毎日会っているのに、毎日かわいい。当たり前だけど当たり前じゃない気がして、食事の手を止めてまじまじと見つめてしまう。
今日のふたりはベロア素材のジャケットと半ズボンを身につけている。長ズボンを嫌うのは相変わらずなので、長靴下をピッタリと引き上げて履いていた。
身長が伸びたせいで去年と同じ服はもう入らない。上着もズボンも靴下も、全部この冬のために新調したものだ。
――もうすぐ六歳だものね。出会った時はまだ四歳だったのに。
ロベールとマルセルに出会ってから、時の流れを実感するようになった。自分が歳を重ねることには無頓着なのだが、ロベールとマルセルの一日一日が積み重なったものが一年だと思うと愛おしくもあり、寂しくもあり、頼もしくもあるという、複雑な気持ちになるのだ。
「鹿の背肉ロースト、赤ワインソースでございます。王子殿下たちは林檎と肉汁の甘いソースでお召し上がりください」
「これはうまそうだ」
メイン料理を前にしたルイゾン様の言葉に、私は気持ちを切り替えようと笑みを浮かべた。
――鹿の背肉、ルイゾン様はお好きですものね。
貯蔵庫にあった上質な鹿を意気揚々と調理する料理長の顔が浮かぶ。添えられた栗の実も、赤ワインのソースも、すべてルイゾン様が好む味付けだった。
ホロリとした鹿肉をひと口食べて、思わず呟く。
「美味しい……」
ルイゾン様も満足そうだ。
「ああ。やはりこの味だ」
ロベールとマルセルも嬉しそうに頷いている。
「栗だ! わたし、木の実ならなんでも好きです!」
「わたしも木の実大好きです!」
――ロベールは好きなものを先に食べて、マルセルは後で食べるのよね。
すでに栗の実を食べ切っているロベールのお皿と、鹿肉から平らげて栗を残しているマルセルのお皿を見比べて、小さく笑う。最近、顕著になったふたりの違いだ。
「おいしいです!」
「とってもおいしいです!」
とはいえ、フォークを動かす様子はピッタリと一致するように同じ動きなのが双子らしい。
――ふたりとも最近さらによく食べるようになったわ。
私以上に食べるようになる日も近いだろうと思いながら鹿肉を味わっていたら、マルセルが思いついたように言った。
「父上、まじゅうたいじのときは、なにをめしあがっているんですか?」