双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~5
言われてみれば、私もよく知らない。ロベールも、そういえば、という顔をしてルイゾン様の答えを待っている。
「そうだな……」
ルイゾン様は目の前の鹿肉を見て、少し笑った。
「だいたいが、硬くて冷たいものだ」
「ええっ! かたい?」
「つめたいんですか?」
ふたりに続いて私も言う。
「どうしてですか?」
――だって、国王陛下なのに?
私たちの反応に、ルイゾン様は苦笑した。
「全部が全部、硬くて冷たいわけじゃないんだが……朝は硬くなったパンを冷たいスープに浸したものが多いな。急ぐ時は、保存が効くチーズや干した林檎を馬に乗りながら食べる」
確かにどれも硬くて冷たい。
ロベールとマルセルは信じられないというように、お互いの顔を見合わせている。普段のルイゾン様からは想像もできない食事だからだ。
ルイゾン様はさらに説明する。
「昼間も硬いパンだな。だが、燻(くん)製(せい)肉や木の実なども食べるぞ。ゆっくりしていられない時は、短時間で腹に入れられるものが優先されるんだ」
「ひるまもかたいんですか……」
「よるもかたい……」
ふたりの不安そうな呟きに、ルイゾン様は笑う。
「夜は温かいものが多いぞ」
ロベールとマルセルはパアッと顔を明るくした。
「あったかいものですか!」
「よかったです!」
私も一緒になって尋ねる。
「どんなお料理なんですか?」
ルイゾン様はその情景を思い浮かべるように、中空を見つめた。
「みんなで鍋を囲むことが多いな」
ロベールが前のめりになる。
「なべ! しってます!」
マルセルも勢い込んだ。
「オーギュスタンにきいたことあります!」
最近のふたりは、本宮殿のオーギュスタンに会いに行くことが多いのだ。だが、鍋の話までしているとは。
――さすが主席近侍だわ。会話の守備範囲が広い。
感心する私をよそに、ルイゾン様が続ける。
「塩漬け肉や、干し豆。その他なんでもあるものを入れて、味が濃い煮込みを作るんだ。パンを浸して食べるとうまい」
「パンはきゅうでんからもっていくんですか?」
ロベールの質問に、ルイゾン様が満足そうに答えた。
「もちろん持っていく。だが宿屋に泊まったついでに分けてもらうこともあるし、立ち寄った村で仕入れる時もある」
「まほうでりょうりをするんですか?」
そう聞いたのはマルセルだ。
「いいや、魔力を温存するために魔法は使わない。それに魔獣が近くにいる可能性があるだろう」
思わず口を挟む。
「魔獣がいると料理にも魔法を使えないのですか?」
使わなくても料理はできるだろうが、野営では不便そうだ。
ルイゾン様はグラスの水をひと口飲んだ。
「ペルルの撒(ま)き餌で、魔獣が魔力に引き寄せられることがわかったからね。それ以来、野営では極力使わないようにしている」
思わず眉を上げる。
「撒き餌の影響が、そんなところにも?」
「ああ。飢えた夜の魔獣を、わざわざ呼び寄せることもないだろう」
ペルルとは、魔草の葉の表面に放出される、魔力の塊だ。真珠(ペルル)に似ていることからその名がついた。
触れればすぐに弾けてしまうが、唯一マルセルだけがそれをつまむことができる。
それだけではない。
マルセルが魔草に「お願い」すると、放出されるペルルの重さや大きさまで変わる。魔獣を人里から遠ざけるために撒かれる特大ペルルも、そうして生まれたものだ。
けれど、当のマルセルには魔力がなく、魔法は使えない。
一方のロベールは、年々魔力量を増やしている。五歳にして四大魔法を操り、さらに極めて稀な光魔法まで使う。
それに加え「赤い髪の女の人」――幽霊まで見えることから、ルイゾン様の『観察眼』に似た能力を秘めている可能性があった。
だが、ふたりのこうした能力は、まだ世間には公表していない。公にする時期は慎重に選ぶつもりだった。
――ここにいてくれるだけでいい。
メインを食べ終えたルイゾン様は、思い出したようにしみじみと呟く。
「遠征の時は温かいものが一番のご馳走だな」
その言葉に胸がギュッとなる。
自分を特別扱いしようと思えばいくらでもできる立場でありながら、この人は皆と同じ鍋を囲むのだ。
――私も試してみようかしら。
ルイゾン様や騎士たちと同じ経験をすることは、王妃として大事なことのような気がする。だけど、どうせなら新しい発見があるものがいい。そうだ、ルイゾン様には以前止められたが、魔草を食べてみるのはどうだろう。もしも食用の魔草があれば――。
「ジュリア、やめてくれ」
「そうだな……」
ルイゾン様は目の前の鹿肉を見て、少し笑った。
「だいたいが、硬くて冷たいものだ」
「ええっ! かたい?」
「つめたいんですか?」
ふたりに続いて私も言う。
「どうしてですか?」
――だって、国王陛下なのに?
私たちの反応に、ルイゾン様は苦笑した。
「全部が全部、硬くて冷たいわけじゃないんだが……朝は硬くなったパンを冷たいスープに浸したものが多いな。急ぐ時は、保存が効くチーズや干した林檎を馬に乗りながら食べる」
確かにどれも硬くて冷たい。
ロベールとマルセルは信じられないというように、お互いの顔を見合わせている。普段のルイゾン様からは想像もできない食事だからだ。
ルイゾン様はさらに説明する。
「昼間も硬いパンだな。だが、燻(くん)製(せい)肉や木の実なども食べるぞ。ゆっくりしていられない時は、短時間で腹に入れられるものが優先されるんだ」
「ひるまもかたいんですか……」
「よるもかたい……」
ふたりの不安そうな呟きに、ルイゾン様は笑う。
「夜は温かいものが多いぞ」
ロベールとマルセルはパアッと顔を明るくした。
「あったかいものですか!」
「よかったです!」
私も一緒になって尋ねる。
「どんなお料理なんですか?」
ルイゾン様はその情景を思い浮かべるように、中空を見つめた。
「みんなで鍋を囲むことが多いな」
ロベールが前のめりになる。
「なべ! しってます!」
マルセルも勢い込んだ。
「オーギュスタンにきいたことあります!」
最近のふたりは、本宮殿のオーギュスタンに会いに行くことが多いのだ。だが、鍋の話までしているとは。
――さすが主席近侍だわ。会話の守備範囲が広い。
感心する私をよそに、ルイゾン様が続ける。
「塩漬け肉や、干し豆。その他なんでもあるものを入れて、味が濃い煮込みを作るんだ。パンを浸して食べるとうまい」
「パンはきゅうでんからもっていくんですか?」
ロベールの質問に、ルイゾン様が満足そうに答えた。
「もちろん持っていく。だが宿屋に泊まったついでに分けてもらうこともあるし、立ち寄った村で仕入れる時もある」
「まほうでりょうりをするんですか?」
そう聞いたのはマルセルだ。
「いいや、魔力を温存するために魔法は使わない。それに魔獣が近くにいる可能性があるだろう」
思わず口を挟む。
「魔獣がいると料理にも魔法を使えないのですか?」
使わなくても料理はできるだろうが、野営では不便そうだ。
ルイゾン様はグラスの水をひと口飲んだ。
「ペルルの撒(ま)き餌で、魔獣が魔力に引き寄せられることがわかったからね。それ以来、野営では極力使わないようにしている」
思わず眉を上げる。
「撒き餌の影響が、そんなところにも?」
「ああ。飢えた夜の魔獣を、わざわざ呼び寄せることもないだろう」
ペルルとは、魔草の葉の表面に放出される、魔力の塊だ。真珠(ペルル)に似ていることからその名がついた。
触れればすぐに弾けてしまうが、唯一マルセルだけがそれをつまむことができる。
それだけではない。
マルセルが魔草に「お願い」すると、放出されるペルルの重さや大きさまで変わる。魔獣を人里から遠ざけるために撒かれる特大ペルルも、そうして生まれたものだ。
けれど、当のマルセルには魔力がなく、魔法は使えない。
一方のロベールは、年々魔力量を増やしている。五歳にして四大魔法を操り、さらに極めて稀な光魔法まで使う。
それに加え「赤い髪の女の人」――幽霊まで見えることから、ルイゾン様の『観察眼』に似た能力を秘めている可能性があった。
だが、ふたりのこうした能力は、まだ世間には公表していない。公にする時期は慎重に選ぶつもりだった。
――ここにいてくれるだけでいい。
メインを食べ終えたルイゾン様は、思い出したようにしみじみと呟く。
「遠征の時は温かいものが一番のご馳走だな」
その言葉に胸がギュッとなる。
自分を特別扱いしようと思えばいくらでもできる立場でありながら、この人は皆と同じ鍋を囲むのだ。
――私も試してみようかしら。
ルイゾン様や騎士たちと同じ経験をすることは、王妃として大事なことのような気がする。だけど、どうせなら新しい発見があるものがいい。そうだ、ルイゾン様には以前止められたが、魔草を食べてみるのはどうだろう。もしも食用の魔草があれば――。
「ジュリア、やめてくれ」