あえかなる君へ 心からの愛を
食後にコーヒーを飲みながら、二人で肩を並べてパソコンに向かう。

「見て。あーみゃさんが動画の生配信でグッズの宣伝してくれてる」
「おお、すごい視聴者の数だな。これはリリースの瞬間、一気にうちのサイトにアクセスが集中するかも」
「森住、大丈夫なの?」
「任せとけって」

カタカタとパソコンを操作する柊を頼もしく思いながら、乙葉はふと訊いてみた。

「ねえ、前から思ってたんだけど、DX本部って何がデラックスなの?」
「は!? デラックスって、お前まさかDXのことデラックスって意味だと思ってたのか?」
「違うの?」
「違うわ!」

やれやれとため息をついてから、柊は改めて口を開く。

「DXはデジタルトランスフォーメーションのこと。広報で実際に堀井がプレスリリースなんかをサイトにアップロードしてるだろ? あのシステムを俺たちが作ったんだけど、そういう単なる業務のIT化というよりは、デジタル技術を活用してビジネスモデルそのものを変革しようって部署」
「え、何? なんか森住が頭いい人みたいに思えてくる」
「おい、SEを何だと思ってる?」
「人呼んでパソコンオタク」
「勝手に呼ぶな! それに正確にはフルスタックエンジニアっていって、全工程を一人でこなすオールラウンダーだ」

乙葉が沈黙すると、柊は「ちょっと、今何を想像してる?」と訝しげな顔を向けた。

「なんか……オラウータンのラスボス?」
「バカ! お前はほんとにもう……」

そうこうしているうちに深夜零時が近づき、おのずと二人の間にも緊張感が高まる。

「まずは零時ちょうどにきちんと販売開始のページに切り替わるか、それからスムーズに購入まで進めるかをチェックする。あらかじめサーバーの台数を通常の二倍に増やしておいた。テストでは問題なし。堀井、リリースされたら実際に何か購入してみてくれ」
「うん、わかった」
「よし、カウントダウンだ。二十秒前……」

二人でモニターの時計の表示をじっと見つめる。

「五秒前、四、三、二、一、リリース」

パッとサイトの表示が変わり、【ご購入はこちら】の項目が現れた。
乙葉はすぐさまカーソルを合わせてクリックする。

「動くけど、ちょっと重いみたい」
「転売ツールの不正アクセスが混ざってるな。同一IPの連続リクエストを弾く」

柊は自分のパソコンをカタカタと操作する。

「よし、設定を反映させた。そっちはどうだ?」
「ゆっくりだけどページは進んでる」
「そうか。それにしても想定以上の負荷だな。自動スケールの速度が追いついてない。手動でサーバーをあと数台追加しておく」

柊が再びパソコンを操作するかたわら、乙葉は無事に購入手続きを済ませる。
【お買い上げ誠にありがとうございました】の表示を見て、ホッと息をついた。

「問題ないみたいね」
「ああ、サーバーの追加も完了した。これで全体の負荷も下がっていくと思う。このまま様子をみよう」
「うん」
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