あえかなる君へ 心からの愛を
堀井乙葉という女性
(はあ、何やってんだよ俺)

乙葉が出て行った仮眠室で、柊は大きなため息をつきながらソファに腰を下ろす。
先ほどまでの乙葉とのやり取りを思い出し、自分の無神経さに腹が立っていた。

(なんでちゃんとあいつのことを考えなかった? なんて酷い奴なんだよ、俺は)

乙葉の言うことはもっともだ。
なのにどこかで許されると過信していた。

今日のサイトリリースに向けて乙葉も泊まり込むと言った時、仮眠室をもうひと部屋予約するべきだったのにそこまで頭が回らなかった。

君島に「乙葉ちゃんの分の部屋は取ってあるのか?」と訊かれて初めて気づき、「手配しておきます」と答えたのだが、既に別の人に予約されていた。

それなのに(まあ、あいつならいいって言うだろうな)と勝手に己に言い聞かせ、乙葉にそのことを話すことさえしなかった。

先日もホテルの同じ部屋で、しかも同じベッドで寝たくらいだから、今回は別々のソファベッドだしどうってことはないだろうと。

(そんなわけあるかよ。あいつは俺なんかと一緒なんて、嫌で仕方ないんだろうから)

乙葉は同期の中でも一番気心が知れた仲だと自分は思っている。
けれど彼女は女性で、しかも色んな人に告白されるほど魅力的なのだ。
軽い扱いをしていい相手ではもちろんない。

冷静になればなるほど、自分の愚かさに頭を抱えた。

女性にさり気なく手を貸したり、いつもレディファーストをさらりとこなす君島を見て、あんなふうにはできないなと思っていたが、それとこれとは話が別だ。

(もう完全に嫌われただろうな。当然か)

ノロノロと立ち上がり、もう片方のソファのリクライニングを倒して乙葉の為にフルフラットのベッドにした。
クローゼットから枕やシーツ、ブランケットを取り出して、丁寧にベッドを整える。

エアコンを調節して、湯冷めしないよう温度を高めに設定していると、カチャッとドアが開いて乙葉が入って来た。
長袖のカットソーとラフなジーンズ姿で、髪がまだ乾き切っていない。

「ドライヤー、しなかったのか?」
「え、あるの?」
「ああ、脱衣所の洗面台の棚にある。待ってろ」

柊は急いでドライヤーを取りに行き、乙葉をベッドに促してドライヤーを手渡した。

「コンセントは、ここに延長コードがあるから」
「ありがとう。森住もシャワー浴びておいでよ。私はもう寝るだけだから、ごゆっくり」
「わかった」

着替えを手にシャワールームに行き、頭からザーッとシャワーを浴びる。

(もう一度ちゃんと謝ろう。気が回らない上に茶化してしまったなんて、男として最低だ)

シャワーを終えて着替えると、よしと気を引きしめてからドアをノックして仮眠室に戻る。

「堀井?」

そっと声をかけると、乙葉は既にベッドに入ってよく眠っていた。
柊は小さく息をつくと部屋の照明を暗くし、そばにひざまずいて乙葉の横顔を見つめる。

「ごめんな」

ポツリと呟いて立ち上がり、静かにドアを開けて部屋を出た。
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