あえかなる君へ 心からの愛を
「ん? 乙葉ちゃん、どうかしたの?」

翌日、仕事中もふとした瞬間に柊の言葉を思い出していると、隣の席の紗理奈に声をかけられた。

「あ、いえ。すみません、ちょっとぼんやりしてしまって」
「それはいいけど、何か悩みごと?」
「悩みというか、気になることがあって」
「ふうん……。ねえ、今日のランチ一緒に食べに行かない? ちょっと乙葉ちゃんに話しておきたいことがあって」
「はい、もちろん」

二人で仕事の手を進め、十二時になると連れ立って近くのカフェに向かった。

「あー、久しぶりに美味しいものたくさん食べたい。ようやくつわりが治まって食欲もりもりなの」
「そうなんですね。順調でよかったです」
「お腹ももうかなりぽっこりしてきたじゃない? これ以上は隠せないなと思うし、そろそろ皆にお知らせしようと思って。部長と課長にはもう伝えたけど、クリスマスに婚姻届を出す予定でね」
「クリスマスに? すてき! おめでとうございます」
「ありがとう」

紗理奈はにっこり微笑み、「何にしようかな」と呟いてメニューを選ぶ。

(なんだかとっても美しい。きれいな紗理奈さんがさらに輝いて見える。幸せのオーラだなあ)

乙葉がそう思っていると、紗理奈が「ん?」と顔を上げた。

「乙葉ちゃん、やっぱり何か悩んでるでしょ?」
「いえ、本当にそんなことはないです。何を食べようかなって考えてるだけで」

慌ててメニューを開き、「デミグラスソースのオムライスにします」と言うと紗理奈も一度は引き下がる。
けれど運ばれてきたオムライスを食べていると、また探るように訊かれた。

「乙葉ちゃん、今度のグッズのリリースが二十日じゃない? その日も柊くんと泊まり込むの?」
「はい、多分」
「ふうん……。最近柊くんとは何か話した?」
「そう、ですね。昨日一緒に夕食を食べに行きました」

隠すことでもないし、もしかしたら柊が君島に話しているかもしれないと思い、敢えてさらっとそう伝える。
すると紗理奈は「ええ!?」と身を乗り出してきた。

「何かあったの? どんな話をしたの? 乙葉ちゃんが誘ったの?」
「さ、紗理奈さん、そんな前のめりに……。えっと、動画の編集がどうなったか訊きに、私がDXのオフィスに顔を出したんです。そこで森住と一緒に動画をチェックして、無事に公開して、そのまま帰りにご飯でも……って流れで」
「それで、何を話したの? 乙葉ちゃんが悩みを打ち明けたりとか?」
「いえ、私は特に悩みごとはなくて、どちらかと言うと森住が少し悩んでるみたいでした。紗理奈さん、君島さんから何か聞いてませんか? 最近、森住が落ち込んだり元気がなかったり、変わった様子とかは?」

紗理奈は大きな目をぱちぱちとしばたたかせてから、ふうとため息をついて椅子に背を預ける。

「紗理奈さん? 大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。全然どうってことない。乙葉ちゃんと柊くんの方がどうってことある」
「はい?」

一体どういうことかと首をひねっていると、改めて紗理奈が身体を起こした。

「ねえ、乙葉ちゃん。クリスマスイブに私たちの新居に遊びに来ない? 今年のイブは土曜日でしょ?」
「え、はい? だって紗理奈さん、クリスマスに婚姻届を……」
「そう。だから独身最後のクリスマスイブに、楽しくパーティーでもしたいなって。どう?」
「そんな、君島さんにご迷惑では?」
「大丈夫よ、彼もそういうの好きなタイプだから。それにこのままにはしておけないわ」
「このまま、というのは?」

乙葉の問いには答えず、紗理奈は両腕を組んで何やら考え込む。

「まったくもう……。乙葉ちゃんは想像以上に男前だし、柊くんは不器用すぎる!」
「……はい?」
「とにかく乙葉ちゃん、クリスマスイブにうちでランチパーティーしましょ」
「ではお言葉に甘えて。でも紗理奈さん、無理しないでくださいね。私、デパ地下に寄ってオードブルとチキンとケーキ買って行きますから。紗理奈さんは何もしないでくださいね」
「ありがとう。楽しみにしてるね」
「はい。君島さんにもよろしくお伝えください」

その後は二人でおしゃべりしながらランチを楽しんだ。
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