あえかなる君へ 心からの愛を
そしてクリスマスイブがやって来る。
柊は夕べのうちに乙葉と連絡を取り合い、新宿駅で朝十時に落ち合うことになっていた。
ソワソワするあまり十五分前には着いてしまい、中学生の初デートかよ? と自分に呆れながらスマートフォンをいじって乙葉を待つ。
しばらくして「ごめん、お待たせ」と声がして乙葉がタタッと近づいて来た。
「いや、大丈夫……」
顔を上げた柊は思わず言葉を失う。
乙葉はいつものオフィススタイルとは違い、真っ白なコートにミントグリーンのワンピースを合わせていた。
髪は緩く巻いてサイドでまとめ、メイクも淡いピンクで華やな雰囲気だ。
(か、可愛い)
柄にもなく顔が火照ってしまい、ごまかすように背を向けて歩き出す。
「行こうか」
「うん」
だがさすがは土曜日のクリスマスイブ、歩道はたくさんの人で混雑していた。
しかも恋人同士腕を組んでいるせいか、気を抜けばドンとぶつかり、乙葉とはぐれそうになる。
「堀井、こっち」
柊は乙葉の肩を抱いてかばうように歩く。
「大丈夫か?」
「うん、平気。クリスマスイブってこんなに混雑するんだね」
「ああ、土曜日だしな。車道も渋滞してる」
「まだ朝なのにね」
そんなことを話しながらデパートに足を踏み入れると、ここでも人が溢れ返っていて驚く。
「すごいね。あ、そっか。クリスマスプレゼントを買いに来たんだ」
ジュエリーショップは身動き取れないほどカップルで埋め尽くされ、柊は乙葉の肩をしっかり抱いて地下に向かった。
「ふう、ここはまだマシかな?」
「そうだな。えっと、何を買うんだっけ?」
「オードブルとケーキ。あ、よさそうなのがたくさんあるね」
乙葉はずらりと並べられたクリスマス用のオードブルを早速選び始める。
「フライドチキンとローストチキン、両方入ってていいね。ピザとパエリアと、サラダとフルーツも。うん、こんな感じかな?」
どう? と訊かれて柊は「いいと思う」と頷き、全てレジに運んで清算を済ませた。
「ありがとう。あとで半分払うね」
「バカ、いらない。あとはケーキか?」
「うん! 私ね、実は甘い物大好きなんだ。一人でクリスマスケーキって食べ切れないでしょ? だから毎年コンビニスイーツで我慢してたんだけど、今日は美味しいケーキ食べたい」
にこっと笑いかけられ、柊はまたしてもドキッとする。
「おう、どれでも好きなの選べ」
「森住は甘いの平気?」
「何でもこい」
「ふふっ、じゃあこの小さめのを二つ買っちゃおうかな。一つは生クリームで、もう一つはオペラ」
「オペラ?」
急に何の話かと首をかしげると、乙葉が「これ」とチョコレートケーキを指差す。
「アーモンドの生地にコーヒーシロップを染み込ませたチョコレートガナッシュのケーキ。ビターチョコとコーヒーのほろ苦さで大人の味わいなんだよ。表面はグラサージュでつやつやでしょ?」
「お、おう。つやつやのグラサンな。しかもなんか金箔載ってる。貴族の食べ物か?」
「あはは! そうだね、フランス発祥のケーキだよ」
「そうか。じゃあそのおフランスのケーキと、生クリームのケーキを買おう。混んでるからここで待ってて」
そう言い残して会計の列に並び、支払いを済ませて乙葉の元に戻ろうとすると、乙葉は何やら男性と揉めていた。
「離してください。嫌だって言ってるでしょう?」
「まあまあ。イブに一人でいるなんて寂しいじゃない。彼氏いないんでしょ?」
「あなたには関係ありません」
しまった、ナンパかと、柊は急いで人波を縫って乙葉に近づく。
だが男が強引に乙葉の腕を掴むのが見えてカッとした。
「乙葉!」
ハッと乙葉が顔を上げる。
柊は腕を伸ばすと乙葉の肩をグッと抱き寄せ、背中にかばった。
「人の女に気安く触るな」
男を睨みつけると、「チッ、なんだよ。いるんじゃねえか」と言い残して去って行く。
柊はすぐさま乙葉を振り返った。
「ごめん、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。あれくらい何でもないよ。ありがとう。私こそごめんね、こんなに混んでるところに連れて来ちゃって」
「なんで謝る? 俺がそばを離れたのが悪いんだ」
「でも私の買い物につき合わせちゃったから」
「お前は何も悪くない。いいか? もっと自分を大切にしろ」
乙葉はキョトンと首をかしげる。
「森住、どうかしたの?」
「いいから、行くぞ」
柊は乙葉の手をギュッと握って歩き出した。
柊は夕べのうちに乙葉と連絡を取り合い、新宿駅で朝十時に落ち合うことになっていた。
ソワソワするあまり十五分前には着いてしまい、中学生の初デートかよ? と自分に呆れながらスマートフォンをいじって乙葉を待つ。
しばらくして「ごめん、お待たせ」と声がして乙葉がタタッと近づいて来た。
「いや、大丈夫……」
顔を上げた柊は思わず言葉を失う。
乙葉はいつものオフィススタイルとは違い、真っ白なコートにミントグリーンのワンピースを合わせていた。
髪は緩く巻いてサイドでまとめ、メイクも淡いピンクで華やな雰囲気だ。
(か、可愛い)
柄にもなく顔が火照ってしまい、ごまかすように背を向けて歩き出す。
「行こうか」
「うん」
だがさすがは土曜日のクリスマスイブ、歩道はたくさんの人で混雑していた。
しかも恋人同士腕を組んでいるせいか、気を抜けばドンとぶつかり、乙葉とはぐれそうになる。
「堀井、こっち」
柊は乙葉の肩を抱いてかばうように歩く。
「大丈夫か?」
「うん、平気。クリスマスイブってこんなに混雑するんだね」
「ああ、土曜日だしな。車道も渋滞してる」
「まだ朝なのにね」
そんなことを話しながらデパートに足を踏み入れると、ここでも人が溢れ返っていて驚く。
「すごいね。あ、そっか。クリスマスプレゼントを買いに来たんだ」
ジュエリーショップは身動き取れないほどカップルで埋め尽くされ、柊は乙葉の肩をしっかり抱いて地下に向かった。
「ふう、ここはまだマシかな?」
「そうだな。えっと、何を買うんだっけ?」
「オードブルとケーキ。あ、よさそうなのがたくさんあるね」
乙葉はずらりと並べられたクリスマス用のオードブルを早速選び始める。
「フライドチキンとローストチキン、両方入ってていいね。ピザとパエリアと、サラダとフルーツも。うん、こんな感じかな?」
どう? と訊かれて柊は「いいと思う」と頷き、全てレジに運んで清算を済ませた。
「ありがとう。あとで半分払うね」
「バカ、いらない。あとはケーキか?」
「うん! 私ね、実は甘い物大好きなんだ。一人でクリスマスケーキって食べ切れないでしょ? だから毎年コンビニスイーツで我慢してたんだけど、今日は美味しいケーキ食べたい」
にこっと笑いかけられ、柊はまたしてもドキッとする。
「おう、どれでも好きなの選べ」
「森住は甘いの平気?」
「何でもこい」
「ふふっ、じゃあこの小さめのを二つ買っちゃおうかな。一つは生クリームで、もう一つはオペラ」
「オペラ?」
急に何の話かと首をかしげると、乙葉が「これ」とチョコレートケーキを指差す。
「アーモンドの生地にコーヒーシロップを染み込ませたチョコレートガナッシュのケーキ。ビターチョコとコーヒーのほろ苦さで大人の味わいなんだよ。表面はグラサージュでつやつやでしょ?」
「お、おう。つやつやのグラサンな。しかもなんか金箔載ってる。貴族の食べ物か?」
「あはは! そうだね、フランス発祥のケーキだよ」
「そうか。じゃあそのおフランスのケーキと、生クリームのケーキを買おう。混んでるからここで待ってて」
そう言い残して会計の列に並び、支払いを済ませて乙葉の元に戻ろうとすると、乙葉は何やら男性と揉めていた。
「離してください。嫌だって言ってるでしょう?」
「まあまあ。イブに一人でいるなんて寂しいじゃない。彼氏いないんでしょ?」
「あなたには関係ありません」
しまった、ナンパかと、柊は急いで人波を縫って乙葉に近づく。
だが男が強引に乙葉の腕を掴むのが見えてカッとした。
「乙葉!」
ハッと乙葉が顔を上げる。
柊は腕を伸ばすと乙葉の肩をグッと抱き寄せ、背中にかばった。
「人の女に気安く触るな」
男を睨みつけると、「チッ、なんだよ。いるんじゃねえか」と言い残して去って行く。
柊はすぐさま乙葉を振り返った。
「ごめん、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。あれくらい何でもないよ。ありがとう。私こそごめんね、こんなに混んでるところに連れて来ちゃって」
「なんで謝る? 俺がそばを離れたのが悪いんだ」
「でも私の買い物につき合わせちゃったから」
「お前は何も悪くない。いいか? もっと自分を大切にしろ」
乙葉はキョトンと首をかしげる。
「森住、どうかしたの?」
「いいから、行くぞ」
柊は乙葉の手をギュッと握って歩き出した。