あえかなる君へ 心からの愛を
「いらっしゃーい!」

無事に教えられたマンションに到着し、紗理奈と君島が笑顔で出迎えてくれる。

「こんにちは、お邪魔します」
「どうぞどうぞ、入って」
「はい。わあ、すてきなお部屋」

リビングに通されると、乙葉はうっとりと辺りを見渡す。

「広いし明るいし、何よりインテリアのセンスがさすがですね。モデルルームみたい」
「ふふ、ありがとう。ほら二人とも、ソファに座ってて。今コーヒーを淹れるわね」
「私もお手伝いします。これ、オードブルとケーキなので、冷蔵庫に入れてくださいね。あとは、これを紗理奈さんに」
「なあに? まあ、きれいなお花。ありがとう、乙葉ちゃん。早速テーブルに飾らせてね」
「はい。リースと迷ったんですけど、紗理奈さんなら既に飾ってあるかなと思って。やっぱり玄関にすてきなリースがありましたね。あと、この大きなクリスマスツリーにも。本当にすてき」

目を輝かせる乙葉に見とれていると、君島が「柊?」と声をかけてきた。

「はい、何でしょう」
「いや、なんか魂抜けてそうだったから」
「え? ちょっと、君島さん」
「ははっ、よかったよ、返事してくれて。固まったまま地蔵になってたらどうしようかと思った」
「何ですか、それ」

すると紗理奈と乙葉がコーヒーをソファに運んで来た。

「はい、どうぞ。あ、そうだ。乙葉ちゃんと柊くん、せっかくだからツリーの前で写真撮らない? ほらほら、並んで」

君島が「コーヒーどうぞとか言いながら、ツリーの前にほらほらとか、忙しいな紗理奈」と苦笑いする。

「だって乙葉ちゃんと柊くんが来てくれるなんて、もうウキウキしちゃって」
「それはよくわかる。朝から落ち着きなかったもんな」
「そうなの。だから写真も撮らなくちゃ。ほら、二人とも、もっとくっついて」

言われるがままにツリーの前で乙葉と肩を並べると、何枚もカシャカシャと写真を撮られた。

「やーん、すてき! 早速乙葉ちゃんに送るわね」
「ありがとうございます。じゃあ今度は紗理奈さんと君島さんも」

交代で写真を撮るとソファに座ってコーヒーを飲みつつ、紗理奈は嬉しそうに話し続ける。

「今日の乙葉ちゃんの服、とっても可愛いわね」
「あ、変じゃないですか? 紗理奈さんと君島さんのお部屋の雰囲気を壊してはいけないと、がんばってみました」
「そんなの気にしなくていいのに。でも本当にキュート。ね? 柊くん」

急に話を振られて、柊は「はい。……はい?」と下がったり上がったりする。

「あはは! そこは素直に『うん、可愛いよ』でいいのに」

返事に困っていると乙葉が身を乗り出した。

「お二人、結婚式はどうされるんですか?」
「私がこんなお腹だから、身内だけ呼んで年明けに挙式と食事会をするの。会社のみんなには明後日に報告するつもり。人事部にはもう産休の申請はしてあるわ」
「そうなんですね。よかったら結婚式のお写真、またいつか見せてくださいね」
「うん! 今はマタニティドレスもいいものがたくさんあって、迷っちゃった」
「紗理奈さんならどんなドレスも似合いそう。君島さんと並んで、すてきだろうなあ」

夢見心地になる乙葉に、紗理奈が尋ねる。

「乙葉ちゃんは将来どんなウェディングドレスを着たいの?」
「私ですか? 全く考えてません。そもそも結婚することが想像できないですし」
「どうして? 乙葉ちゃんなら可愛いお嫁さんになるだろうし、優しいママにもなるでしょうね」
「可愛くないですよ、私なんて」
「何言ってるの、可愛いに決まってる。ね? 柊くん」

油断したところでまた話を振られて、柊はコーヒーにむせそうになった。

「それより紗理奈さん、そろそろお食事にしませんか?」

乙葉が話題をそらすと「そうね」と紗理奈が頷き、二人はキッチンへ向かう。

ホッとしていると今度は君島に話しかけられた。

「柊、ちゃんと二人の時は乙葉ちゃんに『可愛いよ』って言ってるのか?」
「ど、どうしてですか? 言いませんよ、そんなこと」
「やれやれ、情けない。いくら仕事ができても一人の男としてそれはどうなんだ? ボヤボヤしてるとあっという間に誰かに取られて後悔しても遅いんだぞ?」
「ちょっと待ってください。まるで俺が堀井のこと狙ってるように聞こえるんですけど」
「当然だろ、好きなんだから」

「すっ……!?」と柊は仰け反って驚く。

「おいおい、思春期のお子さまかよ。もっと大人の男になれ。まずはちゃんと自覚しろよ? 自分が乙葉ちゃんのことどう思ってるのか」

その時「準備できたわよー」と紗理奈に呼ばれて、君島と一緒にダイニングテーブルに移動した。

大きなテーブルにはきれいな赤とゴールドのクロスが重ねてかけてあり、乙葉が所狭しとたくさんの皿を並べている。

「紗理奈さん、このお皿とってもゴージャスですね。デパ地下のオードブルが高級ホテルのごちそうみたいに見えます」
「乙葉ちゃんの盛り付け方が上手なのよ」

紗理奈と笑顔で話しながら手際よく皿に料理を取り分ける乙葉を、柊は新鮮な気持ちで見つめた。

職場ではなく、マンションのダイニングで。
オフィススタイルではなく、華やかなミントグリーンのワンピースで。
キリッとパソコンに向かうのではなく、柔らかい笑みを浮かべて料理を並べて。

そんな乙葉からいつの間にか目が離せなくなっていた。

「森住、サラダのドレッシングどれがいい?」

ふいに顔を向けられて、柊は「ん? じゃあ堀井と一緒で」と答える。

「私、ドレッシングじゃなくて、オリーブオイルとレモン汁とチーズをかけて食べるんだ」
「へえ、じゃあ俺もそれで」
「本当に? 男の人には物足りないかもしれないよ?」

そう言いつつ、乙葉は何やら本格的なおろし金を使ってサラダにチーズをかける。

「見て、このおしゃれなおろし金。グレーターって言うんだって。すてきよね。チーズもパルミジャーノとペコリーノ、二種類かけるね」
「ペコリーノ?」
「そう、ペコリーノ!」

そう言って乙葉は、ふふっと笑う。
今日の乙葉はどうにも魅力的だった。

「それじゃあ、いただきましょうか」

紗理奈に合わせて皆でノンアルコールのシャンパンで乾杯する。

「メリークリスマス!」

料理はどれも美味しく、誰かと一緒に食事をするのがこんなに楽しいとは、と柊は感じていた。

「森住、サラダの味付けどう?」
「うん、美味しい。チーズの風味がいいな」
「そう? よかった」

乙葉がにこっと笑いかけてきて、柊は将来誰かとこうしてテーブルを挟み、毎日おしゃべりしながら食事をするシーンが目に浮かんだ。

それはきっと温かく幸せな日々に違いないと柊は思った。
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