あえかなる君へ 心からの愛を
花火が終わると車に戻り、乙葉のマンションを目指す。
「堀井、時間がかかるから寝てろ」
「寝ないわよ、運転してもらってるんだもん」
だがしばらくすると乙葉の口数が減り、目はトロンと重くなっている。
柊はわざと暖房を強めた。
乙葉がうとうとし始め、やがてスーッと寝入る。
柊は信号待ちの間にパーキングブレーキをかけ、腕を伸ばして乙葉のシートのリクライニングをゆっくり最後まで倒した。
(なんか、幸せそうだな)
会社ではいつも口元をキュッと引きしめている乙葉だが、今は頬を緩めて子どものようにスヤスヤと眠っている。
(きっとこっちが本当の堀井なんだろう。どれだけ会社で気を張っていることか)
そればかりを心配してしまった。
もうすぐ乙葉のマンションに着く頃、小さな花屋の前を通りかかる。
柊は車を止めると店頭に並んでいた花束を手に取った。
深紅のバラと緑の葉、そこにコットンのような白い花と小さな水色の可愛らしい花がちりばめられている。
(あいつ、喜ぶだろうな)
そう思い、会計を済ませて車に戻る。
少し走るとこぢんまりしたワンルームマンションに到着し、柊は乙葉を揺すり起こした。
「堀井、着いたぞ。ここで合ってるか?」
んー、と乙葉が身じろぎしてゆっくりと目を開ける。
「えっ、ごめん。寝ちゃってた?」
「ああ。それよりこのマンションでいいのか?」
「えっと、うん。ここで合ってる。ありがとう」
シートベルトを外してバッグを手にする乙葉に、柊は買ったばかりの花束を差し出した。
「これ、やる」
「何これ?」
「花」
「それはわかるけど、どうして?」
「紗理奈さんの花選んだ時、ほしそうにしてたから」
乙葉はポカンとしながら花束を見つめている。
「おい、早く受け取れ。恥ずかしいだろ」
半ば押しつけるように花束を乙葉に手渡した。
「ありがとう。きれいだね。クリスマスローズとコットンフラワーとブルースターと……ヒイラギ」
乙葉はそう呟くと、思い出したように顔を上げる。
「ねえ、森住の下の名前って柊だよね? 漢字はヒイラギ?」
「そうだけど、それが何?」
「誕生日はいつ?」
えっ、と柊は言葉に詰まる。
「なんだよ急に」
「だって漢字にヒイラギ使ってるから。ひょっとしてこの季節かなと思って。何月何日?」
「今月の……二十五日」
すると乙葉は目を見開いて驚いた。
「それって明日じゃない。クリスマスってこと? どうして教えてくれなかったのよ」
「男が自分の誕生日なんて教えてどうするんだよ?」
「じゃあ明日、どうやって過ごすの?」
「いつも通り部屋でゴロゴロ」
「ケーキは?」
「買うかよ。大体クリスマスケーキしか売ってない」
そっか、と乙葉は何やら視線を落として考え込む。
「ねえ、明日一緒に紗理奈さんたちのパーティー会場探してくれない?」
「それはいいけど。どこで?」
「街はどこも混んでるから、私の部屋でもいい?」
「ああ」
「車で来るよね? ゲストパーキング予約しておく」
「サンキュー」
柊は運転席から降りると助手席に回り、ドアを開けて乙葉に手を貸す。
ハイヒールで降り立った乙葉は、改めて柊にお礼を言った。
「今夜はありがとう。とっても楽しかった」
「こちらこそ」
「じゃあ、明日ね。お昼前くらいに来て」
「わかった。行く時にメッセージ送る」
「うん。また明日ね、おやすみなさい」
「おやすみ」
最後ににっこり笑いかけてから、乙葉は背を向けてエントランスに入って行く。
柊はその場に佇んで、見えなくなるまで乙葉を見送っていた。
「堀井、時間がかかるから寝てろ」
「寝ないわよ、運転してもらってるんだもん」
だがしばらくすると乙葉の口数が減り、目はトロンと重くなっている。
柊はわざと暖房を強めた。
乙葉がうとうとし始め、やがてスーッと寝入る。
柊は信号待ちの間にパーキングブレーキをかけ、腕を伸ばして乙葉のシートのリクライニングをゆっくり最後まで倒した。
(なんか、幸せそうだな)
会社ではいつも口元をキュッと引きしめている乙葉だが、今は頬を緩めて子どものようにスヤスヤと眠っている。
(きっとこっちが本当の堀井なんだろう。どれだけ会社で気を張っていることか)
そればかりを心配してしまった。
もうすぐ乙葉のマンションに着く頃、小さな花屋の前を通りかかる。
柊は車を止めると店頭に並んでいた花束を手に取った。
深紅のバラと緑の葉、そこにコットンのような白い花と小さな水色の可愛らしい花がちりばめられている。
(あいつ、喜ぶだろうな)
そう思い、会計を済ませて車に戻る。
少し走るとこぢんまりしたワンルームマンションに到着し、柊は乙葉を揺すり起こした。
「堀井、着いたぞ。ここで合ってるか?」
んー、と乙葉が身じろぎしてゆっくりと目を開ける。
「えっ、ごめん。寝ちゃってた?」
「ああ。それよりこのマンションでいいのか?」
「えっと、うん。ここで合ってる。ありがとう」
シートベルトを外してバッグを手にする乙葉に、柊は買ったばかりの花束を差し出した。
「これ、やる」
「何これ?」
「花」
「それはわかるけど、どうして?」
「紗理奈さんの花選んだ時、ほしそうにしてたから」
乙葉はポカンとしながら花束を見つめている。
「おい、早く受け取れ。恥ずかしいだろ」
半ば押しつけるように花束を乙葉に手渡した。
「ありがとう。きれいだね。クリスマスローズとコットンフラワーとブルースターと……ヒイラギ」
乙葉はそう呟くと、思い出したように顔を上げる。
「ねえ、森住の下の名前って柊だよね? 漢字はヒイラギ?」
「そうだけど、それが何?」
「誕生日はいつ?」
えっ、と柊は言葉に詰まる。
「なんだよ急に」
「だって漢字にヒイラギ使ってるから。ひょっとしてこの季節かなと思って。何月何日?」
「今月の……二十五日」
すると乙葉は目を見開いて驚いた。
「それって明日じゃない。クリスマスってこと? どうして教えてくれなかったのよ」
「男が自分の誕生日なんて教えてどうするんだよ?」
「じゃあ明日、どうやって過ごすの?」
「いつも通り部屋でゴロゴロ」
「ケーキは?」
「買うかよ。大体クリスマスケーキしか売ってない」
そっか、と乙葉は何やら視線を落として考え込む。
「ねえ、明日一緒に紗理奈さんたちのパーティー会場探してくれない?」
「それはいいけど。どこで?」
「街はどこも混んでるから、私の部屋でもいい?」
「ああ」
「車で来るよね? ゲストパーキング予約しておく」
「サンキュー」
柊は運転席から降りると助手席に回り、ドアを開けて乙葉に手を貸す。
ハイヒールで降り立った乙葉は、改めて柊にお礼を言った。
「今夜はありがとう。とっても楽しかった」
「こちらこそ」
「じゃあ、明日ね。お昼前くらいに来て」
「わかった。行く時にメッセージ送る」
「うん。また明日ね、おやすみなさい」
「おやすみ」
最後ににっこり笑いかけてから、乙葉は背を向けてエントランスに入って行く。
柊はその場に佇んで、見えなくなるまで乙葉を見送っていた。