あえかなる君へ 心からの愛を
コーヒーショップで休憩したり、ツリーの写真を撮ったりしているうちに時間になり、二人でレストランに向かう。
店内の照明はグッと絞ってあり、天井が高く広々とした落ち着いた雰囲気のお店だった。

「森住さまですね、いらっしゃいませ」

黒いスーツ姿のスタッフがうやうやしくお辞儀をして出迎えてくれる。

「こんばんは。急なお電話で失礼しました」
「とんでもない。こちらとしてもお料理が無駄になってしまうところでしたので、ありがたいです。強引にお誘いしてしまい、申し訳ありません。ようこそお越しくださいました。この度はご婚約、誠におめでとうございます」

にこやかに微笑みかけられ、柊と乙葉は「え?」と驚く。

「あ、いえ、違うんです。会社の同僚のパーティー会場を探しているだけでして」
「さようでございましたか。お二人があまりにもお似合いのカップルなので、てっきり……。失礼いたしました。森住さまはもう既にご結婚されているのですか?」
「いえ、まだです」
「でしたら森住さまの時も、ぜひ当店でパーティーを」

「はい」と答えてから、柊と乙葉は顔を見合わせて苦笑いした。
窓際の席に案内されると、先にドリンクを飲みながら簡単に説明を受ける。

「改めまして、わたくしはマネジャーの駒田(こまだ)と申します。どんなご要望も遠慮なくおっしゃってください。会場のレイアウトは、今は中央にクリスマスツリーを置いてありますが、当日は広いホールのようにしてメインテーブルをこの位置に設置します」

駒田に実際のパーティーの様子を写真で見せられ、二人で顔を寄せ合った。

「椅子と小さめのテーブルを壁に沿って並べますので、お食事の際はそちらにご自由にご着席いただけます。ビュッフェカウンターは何台かに分けてこのように並べ、内側でシェフがローストビーフなどを切り分けます。プロジェクター上映の際の照明やBGMなどもこちらをご参照ください」

色々な雰囲気の照明の写真や、BGMの曲名が書かれた資料もあった。
テーブル装飾やパーティーの流れなども詳しく説明があり、このレストランがいかにパーティーに慣れているかがうかがえる。

「全部安心してお任せできるね」

乙葉に言われて「そうだな」と柊も頷いた。

あとは実際にお食事を召し上がってみてくださいと言われ、駒田が席を立つ。
二人はノンアルコールのシャンパンで乾杯した。

「お誕生日おめでとう」
「ありがとう。メリークリスマス」
「ふふっ、メリークリスマス」

笑い合ってから食事を味わう。
クリスマスのコース料理とあって、前菜やスープやお肉はどれもぜいたくなひと品だった。

「私、なんだか知らないうちにキャビアを食べた気がする」
「ははっ、なんだよそれ」
「ちょっと雰囲気に酔っちゃって、よく見ないうちに口にしちゃった」
「テリーヌにキャビアが載ってたよ」
「やっぱり? あー、ちゃんと身構えてから食べたかった」

悔しがる乙葉がおかしくて、柊は笑いが止まらない。

「堀井、次の牛フィレ肉のロッシーニだけど、ステーキの上にソテーしたフォアグラとトリュフが載ってるからな」
「なんてこと! フォアグラとトリュフが一緒にやって来るの? 心して食べないと」

そう言って真剣にナイフを入れると、乙葉はそっと口に運んで目を閉じる。
無言で味わいながらも頬が緩み、幸せそうな笑みを浮かべる乙葉にまた笑いが止まらなくなった。

「堀井、顔芸うまいな」
「ちょっと、美味しく味わってたのに変なこと言わないで」
「はいはい」

テーブルに灯されたキャンドルが、乙葉を優しく彩って揺れる。
柊は何とも言えない幸せを感じながら時折乙葉に見とれていた。

最後にデザートが運ばれてくる。

「お誕生日おめでとうございます」
「え?」

クリスマスケーキかと思いきや、スイーツの盛り合わせには『Happy Birthday!』とフルーツソースで描かれていた。

「どうして?」

すると乙葉が得意気に笑う。

「実は森住のマンションのライブラリーにいる時に電話しておいたんだ。誕生日をお祝いしたいって」
「そうだったのか」
「ほら、ロウソク消して」
「またフー?」
「そう、またフー!」

明るく笑う乙葉に促され、柊は照れながらも一気にロウソクを吹き消した。

「おめでとう、森住」
「ありがとう。なんか、ごめんな。堀井にとってはクリスマスなのに」
「もう、それは言わないの!誕生日の人が主役なんだから。はい、プレゼント。開けてみて」
「ああ」

手渡された箱はダークブルーのペーパーでラッピングされ、ゴールドのリボンに『Happy Birthday』と書かれたカードが挟んである。
一度顔を上げて乙葉を見ると、乙葉は笑顔で頷いた。
柊も微笑んで頷き返し、そっと箱を開けてみる。
入っていたのは、まるで宇宙をそのまま閉じ込めたような、星座が描かれたガラス製のペーパーウェイトだった。
透き通るようなブルーが美しい。

「すごい、きれいだな。手のひらのプラネタリウムみたいだ」
「おお、上手いこと言うね」
「部屋にこれを置いて毎晩眺めたい」
「どうぞどうぞ。ちなみにBは星座のマグカップだったんだ」
「えっ、それもいいな」
「ほんと? じゃあ来年ね」

柊は改めて乙葉に向き直る。

「ありがとう、堀井。誰かに誕生日を祝ってもらうのも、こうしてプレゼントをもらうのも、すごく嬉しい」
「そう? よかった。私も思いがけずいいに日なって楽しかったよ」
「じゃあ、俺から堀井にこれを。メリークリスマス」

隠していたプレゼントを差し出すと、乙葉は目を見開いて驚いた。

「えっ、何これ。どうしたの? さっきのお店で? いつの間に?」
「いいから、ほら。受け取って」
「う、うん」

おずおずと受け取った乙葉は、もう一度柊を見つめる。
柊は頷いてから「開けてみて」と促した。

「なんだろう、ドキドキする。え、すごい! きれい……」

乙葉が箱からタンブラーを取り出すと、キャンドルの明かりに照らされてスワロフスキーがキラリと光った。

「これって、おとめ座?」
「そう。光ってるのがスピカ」
「これが、スピカ……。きれいね」

うっとりと見つめてから、乙葉は顔を上げる。

「ありがとう、森住。びっくりしたけどとっても嬉しい。大切にするね」
「ああ。俺も」

二人で手のひらにプレゼントを載せて微笑み合った。
< 33 / 66 >

この作品をシェア

pagetop