あえかなる君へ 心からの愛を
誕生日と別れ
翌日の二十六日、乙葉がオフィスに出社すると、紗理奈から皆に結婚の報告があった。

「わあっ、君島さんとついに入籍されたんですか? おめでとうございます!」
「ありがとう」

周りを囲まれて輝くような笑顔を浮かべている紗理奈の左手薬指には、真新しいマリッジリングが光っている。
乙葉が遠巻きにその様子を見ていると、紗理奈が顔を上げて近づいて来た。

「乙葉ちゃん、おとといはありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」

そして乙葉は、柊と結婚パーティーを企画していることを紗理奈に話す。

「えっ? そんな、いいのに。でも嬉しい。私も産休前にみんなとおしゃべりしたいから。乙葉ちゃん、段取りお任せしてもいい?」
「もちろんです。君島さんにも日程を訊いてみてくださいね」
「ありがとう。多分、三月末日で大丈夫だと思う」
「あと、これがパーティー会場の候補になっているレストランの資料です。君島さんとご覧になってください」
「わかったわ」

翌日、紗理奈から「彼もその日程で、ぜひこの会場でお願いしますって」と返事をもらうと、早速マーケティング部とDX本部に、乙葉と柊がそれぞれお知らせのメールを一斉送信した。
程なくして参加希望者の返事が次々と届く。

「乙葉さーん、企画開発課のパーティー参加者名簿でーす」

昼休みに入ってすぐ、小森が書類を手に明るくやって来た。

「ありがとう、小森ちゃん」
「いいえー。それより何かお手伝いしましょうか?」
「そうね、えっと」

乙葉はレストランからもらった資料を手にする。
そこには、役割分担して担当者の名前を書き込む欄があった。

「なになに? 参加費徴収、当日受付、ビンゴ景品手配、音響、照明、司会、動画編集……。これ、もう誰かに頼んであるんですか?」

小森に訊かれて乙葉は小さく首を横に振る。

「ううん、まだ……」

誰に頼めばいいのか、そもそも気心知れた人もいないので話しかけるのにも勇気がいった。
すると小森がくるりと向きを変えて辺りを見渡す。

「すみませーん、そこのざっくりしたグループの人、パーティーの受付お願いできますかー? ピンゴの景品調達は、そちらのその辺の方々、あと参加費徴収はそっちに固まってる方々でお願いしまーす」
「え、ちょ、小森ちゃん?」
「詳しくは私か乙葉さんまで。他にもお手伝いできる人、じゃんじゃん声かけてください。お待ちしてまーす」

乙葉が焦っていると、わらわらと人が集まって来た。

「私は何をすればいい?」
「ピンゴの景品、予算はいくら?」

小森が乙葉の手から資料を受け取ってデスクに置く。

「ここにお名前書いてくださーい。詳細は後ほどメールします」

あっという間に全ての項目に担当者の名前が書き込まれた。

「小森ちゃん、すごい! 勇気あるね」

顔も名前も知らない、しかも年上の他部署の人を相手によく声をかけられるなと、乙葉はしきりに感心する。

「ぜーんぜん、どうってことないですよ。私、誰にどう思われようと嫌われようと、気にしないことにしてますから。乙葉さんとあーみゃちゃんがいてくれたらそれでいいんです。えへへー」
「うん、うん、そうだね。小森ちゃん、尊敬する」
「じゃあ今から社食で一緒にお昼どうですか?」
「もちろん! プリンとアイス、おごっちゃう」
「やったー!プリン、アイス、アイスにプリン」
「なあに、それ」

二人で笑いながら社員食堂に向かった。
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