あえかなる君へ 心からの愛を
そしていよいよ三月三十一日がやって来た。

「紗理奈さーん、お世話になりました」

私物を片付けている紗理奈の元に、他部署の人が次々と挨拶にやって来てプレゼントや花を差し出す。

「ありがとう、みんな。また一年後に戻ってくるつもりなのでよろしくね」
「はい。でも寂しくなります。紗理奈さんがいなくなったら、広報との仕事もやりづらくなりますよ」

他意はないのだろうけれど、その言葉は乙葉の心をズキンと痛めた。

「大丈夫よ、頼もしい後輩が新しい風を吹かせてくれると思う。いい機会だからみんなもどんどん新しいことにチャレンジしてね」
「はい! 大きく成長して紗理奈さんの復帰をお待ちしてますね」
「うん、ありがとう」

こんなふうに明るく振る舞いたいのに。
笑顔で「任せてください」と紗理奈を安心させられたらいいのに。
乙葉はそう思えば思うほど、自分が追い詰められていくのを感じていた。

定時になり、ついに紗理奈の勤務時間が終わる。
部長が「お疲れさま」と大きな花束を贈り、皆で拍手で労った。

君島がオフィスに迎えに来て、二人は先にパーティー会場へと車で移動する。
乙葉も仕事を切り上げ、柊と一緒にあとを追った。

「堀井。似合ってる、そのブローチ」
「ふふっ、ありがとう」

乙葉は紺のショートボレロに柊から贈られたパールのブローチを着けていた。
シンプルながら存在感は抜群で、これ一つで装いが華やかになる。

「大切にするね、私の宝物」
「ああ」

乙葉は微笑んでそっとプローチに手を添えた。
レストランに着くと、まずマネージャーの駒田に挨拶する。

「こんばんは、駒田さん。どうぞよろしくお願いします」
「こんばんは、こちらこそよろしくお願いいたします。新郎新婦のお二人は、控え室にご案内いたしました。ドリンクと軽食を召し上がったあと、ヘアメイクとお着替えを済ませていただきます。パーティーのスタートは予定通り十九時半でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。では受付から順にご案内いたします」

駒田から説明を受け、早速受付の準備に取りかかった。

「これが参加者名簿で、ほとんどの人が事前に参加費を渡してくれてるの。丸印がついてる数人だけ未徴収だから、来た時に受け取ることになってる」
「わかった。受付の担当者は早めに来てくれるんだよな?」
「うん、そう。ビンゴの景品を持って来てくれる人と、司会者や音響、照明の担当者も」
「じゃあその人たちが揃ったら軽く打ち合わせしよう。プロジェクターで実際に映像を流してみたい」

動画の編集は柊に任せてあった。

「どんな動画になったの? 森住のことだから、凝ってるんだろうな」
「まあ、見てのおたのしみ」
「うん!」

柊と二人でいると、不思議と心が落ち着きホッと安心する。

「紗理奈さんと君島さん、すてきだろうなぁ。お料理も楽しみだね!」

乙葉は気づけば自然と笑みがこぼれていた。
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