あえかなる君へ 心からの愛を
変わりたい、変わらなきゃ。
乙葉は毎日その言葉を頭の中で繰り返す。
けれどそう思えば思うほど、自分が苦しくなる一方だった。

(でも逃げる訳にはいかない。私はここで踏ん張らなきゃ)

己にそう言い聞かせ、右手で左胸のブローチに触れる。
不思議とそれだけで気持ちが落ち着くのを感じた。

気持ちを張り詰め、涙を見せずに仕事に向かう日々。
いつしか徐々に心がすり減っていっても、それに気づかぬフリをした。

そんなある日、昼休みに嬉しい報告が舞い込んでくる。
紗理奈が元気な女の子を出産したとの報告だった。

「わあ、おめでとうございます!」
『ありがとう、乙葉ちゃん。身体はまだあちこち痛いんだけど、赤ちゃんの顔を見ると吹っ飛んじゃうの』

電話の向こうで紗理奈は笑い、『あとで写真送るね。課のみんなにもよろしく伝えて』と言って電話を切った。
しばらくして送られて来たのは、小さな小さな手を握りしめている天使のように可愛い赤ちゃんの写真。

(ひゃあ、紗理奈さんにそっくり。色白で栗色の髪。可愛いなあ)

スマートフォンを見ながら頬を緩めていると、神田が声をかけてきた。

「どうしたの、堀井さん。なんだか妙ににこにこして」
「あっ、神田さん。見てください。今日、紗理奈さんが無事に女の子を出産されたそうです」
「えっ! 見せて」

すると周りの人も一斉に席を立って集まって来た。

「どれ? きゃー、可愛い! なんて小さいの」
「もう既に美人よね」
「それはそうよ。紗理奈さんと君島さんのお子さんよ? 超絶美人になるわよ」
「早速お祝いしなきゃね」

そう言って神田が乙葉を振り返る。

「堀井さん、代表してお祝いを届けてもらえない?」
「あ、はい。喜んで」
「じゃあ、色紙にみんなでメッセージを書きましょ。お祝いの品は、お子さんがいるママを中心に選んでもらって。集金も誰かやってくれる?」

神田がてきぱきと指示を出し、あっという間に役割分担が決まった。

「堀井さん、君島さんがいるDX本部でも何かお祝いするのかどうか、訊いてみてくれる? プレゼントがかぶるといけないし、どうせなら合算して紗理奈さんがほしいものを君島さんからそれとなく訊いて贈るっていうのもアリかなって」
「そうですね、確かに。ではDX本部に訊いてみます」
「うん、お願いね」

乙葉は早速柊に電話をかけた。

『ああ、俺も今君島さんから訊いた。女の子が無事に生まれたってな』
「うん、そうなの。それで私たち広報課でお祝いを贈る話になってね。DXはどう?」
『まだ何も話は動いてないな。男ばっかりの部署だから、出産祝いってどういうものかピンと来ないし』
「それならうちと合同でする?」
『おお、助かるよ』
「わかった。じゃあまたあとで詳細お知らせするね」
『サンキュー』

電話を切ると神田に事情を話し、色紙はDX本部の分も用意すること、お祝いの金額は一人五百円で徴収し、DXと合算した金額で紗理奈がほしがっているものを購入しようと決まった。
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